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1998年(平成10年)

平成9年仙審第80号
    件名
漁船第八幸洋丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、?橋昭雄、今泉豊光
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:第八幸洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
5番シリンダのクランクピン焼損、連接棒曲損及びシリンダヘッド亀裂並びに過給機損傷等

    原因
主機のトルクリッチ運転を防止する措置不良、主機の運転状態の監視不十分

    主文
本件機関損傷は、主機のトルクリッチ運転を防止する措置がとられなかったばかりか、同機の運転状態の監視が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年2月4日13時30分
宮城県金華山南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八幸洋丸
総トン数 9.90トン
登録長 14.12メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 95キロワット
回転数 毎分1,080
3 事実の経過
第八幸洋丸(以下「幸洋丸」という。)は、昭和55年5月に進水したFRP製漁船で、主機としてヤンマーディーゼル株式会社が製造した6LAA-DT型ディーゼル機関を備え、機関室にはトロールウインチ駆動用油圧ポンプを装備し、主機が推進機関としてのほかに動力取出軸及びエアクラッチを介して同ポンプの動力源としても用いられるようになっていた。
主機は、同57年7月に換装されていて、定格出力330キロワット及び同回転数毎分1,850(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機に負荷制限装置を付設して計画出力95キロワット及び同回転数1,080としたものであったが、換装後に同装置の封印が解除され、燃料油にA重油を使用し、航海全速力前進時の回転数を約1,800までとして運転されていた。
主機のピストンは、船首側のシリンダを1番として6番までの順番号が付されており、アルミニウム合金製の一体型で、圧力リング3本及び油かきリング1本のピストンリングがピストンヘッドに設けられたピストンリング溝4条にそれぞれ装着され、潤滑油がピストン冷却噴油ノズルから供給されるようになっていた。また、主機のクランク室のミスト管は、先端が甲板上に導かれて煙突付近に開口されていた。
A受審人は、幸洋丸の新造時に甲板員として乗り組み、昭和58年に同船の船長に昇進したのち、金華山沖合の漁場に出漁して小型底びき網漁業の日帰り操業を繰り返し、操船のほかに主機の運転保守にもあたっており、平成2年12月に全シリンダのピストン及びシリンダライナの損傷事故が発生したのち、業者に依頼のうえ同損傷部品を交換した。
ところで、幸洋丸の小型底びき網漁業は、300ないし400メートル延出したロープの先の全長約50メートルのオッタートロール網を引く漁法で、揚網の際には、主機を微速力前進にかけたままトロールウインチの巻上げ操作が行われていたが、網が海底の岩場や突起物に根がかりしたり石や砂等をすくい上げることから、その負荷の急激な増加の都度、同機が回転数に相応する出力を超えた状態のトルクリッチ運転となっていた。
しかし、A受審人は、主機の排気温度が揚網中の負荷の増加により著しく上昇することを知っていたものの、高負荷の運転が短時間であったことから、負荷制限装置を当初の状態に戻すなどのトルクリッチ運転を防止する措置をとらず、そのまま運転を続けた。
A受審人は、主機のピストンリングが摩耗して燃焼ガスがクランク室に漏れ、オイルミストがミスト管から排出される状況となったが、操舵室内に流れ込むオイルミストの臭気を嫌い、ミスト管先端にビニールホースを取り付けてその先を舷側から海面近くに導き、オイルミストの排出を見ることができないようにした。そして、主機は、ピストンの長期間の使用によりピストンリング溝が次第に衰耗し、同7年12月ごろには運転中、クランク室に漏れる燃焼ガスが増加した状態となった。
ところが、A受審人は、オイルミストの排出状況に留意するなどして主機の運転状態を十分に監視しなかったので、燃焼ガスの漏れが増加していることに気付かず、ピストンの整備を適切に行わなかった。
こうして、幸洋丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成8年2月4日04時00分宮城県渡波(わたのは)漁港を発し、06時金華山南方沖合の漁場に至って操業を行い、13時から主機を回転数1,000にかけたままトロールウインチの巻上げ操作を行って2回目の揚網を開始し、主機がトルクリッチ運転となったところ、5番シリンダのピストンのピストンリング溝の衰耗が進行していて、燃焼ガスがクランク室に吹き抜ける状態となり、同ピストンが過熱膨張し、13時30分金華山灯台から真方位176度5.9海里の地点において、同ピストンがシリンダライナ摺(しゅう)動面に焼付き固着して破断し、同シリンダの連接棒が振れ回ってクランク室を突き破り、主機が異音を発して停止した。
当時、天候は晴で風力3の南南西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、船尾甲板でトロールウインチの操作中、異音に気付いて機関室に急行し、主機のクランク室に破口が生じていたのを認め、運転を断念した。
幸洋丸は、僚船により渡波漁港に曳(えい)航され、主機が精査された結果、5番シリンダのクランクピン焼損、連接棒曲損及びシリンダヘッド亀(き)裂並びに過給機損傷等が判明したが、A受審人の出力を増強したい意向もあり、新機関と換装された。

(原因)
本件機関損傷は、主機のトルクリッチ運転を防止する措置がとられず、小型底びき網漁業の揚網の際に負荷の増加により排気温度が著しく上昇したばかりか、同機の運転状態の監視が不十分で、クランク室の燃焼ガスが増加したまま運転が続けられ、ピストンが過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機を推進機関としてのほかに小型底びき網漁業のトロールウインチ駆動用油圧ポンプの動力源としても運転する場合、トロールウインチで揚網する際に負荷が急激に増加する状態であったから、クランク室に漏れる燃焼ガスの兆候を察知してピストンの整備を適切に行うよう、オイルミストの排出状況に留意するなどして同機の運転状態を十分に監視すべき注意義務があった。しかるに、同人は、操舵室内に流れ込むオイルミストの臭気を嫌い、ミスト管先端にビニールホースを取り付けてオイルミストの排出を見ることができないようにし、同機の運転状態を十分に監視しなかった職務上の過失により、燃焼ガスがクランク室に吹き抜け、ピストンが過熱膨張してシリンダライナ摺動面に焼付き固着を招き、ピストンの破断により連接棒が振れ回り、クランク室等の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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