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1998年(平成10年)

平成9年仙審第56号
    件名
漁船第12宝進丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年7月14日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、?橋昭雄、今泉豊光
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第12宝進丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
全シリンダのピストン頂面に亀裂及びシリンダライナの摺動面にかき傷等の損傷

    原因
異常箇所の調査不十分(冷却阻害の際)

    主文
本件機関損傷は、主機が燃焼不良の状況になった際の異常箇所の調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年6月25日15時30分
宮城県金華山南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第12宝進丸
総トン数 17トン
登録長 15.66メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 345キロワット
回転数 毎分1,280
3 事実の経過
第12宝進丸(以下「宝進丸」という。)は、昭和52年12月に進水した沖合底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したS160-ST2型ディーゼル機関を主機として備え、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び警報装置を装備していた。
主機は、燃料油にA重油を使用しており、シリンダヘッドが吸気弁2個及び排気弁2個の4弁式構造、ピストンがアルミニウム合金製一体型のもので、輻流形排気ガスタービン式の過給機及び空気冷却器を付設し、過給機のブロワで加圧されて高温となった給気が、空気冷却器に導かれて冷却されることにより密度を増したのち、給気マニホルド及び吸気弁を経てシリンダ内の直接噴射式燃焼室に至り、燃料油と混合するようになっていた。空気冷却器は、冷却面積が15平方メートルで、角形の箱内に多管式の冷却管群を配列し、主機の冷却水系統から供給される海水が冷却管内を流れ、同管外側には銅製薄板を巻き付けていて、給気が薄板に接触して海水と熱交換されていた。また、主機の排気温度については、遠隔指示計の設備がなかったものの、水銀温度計用の取付け座が排気マニホルドに設けてあり、試運転の際などに同温度計により計測が行われていた。
A受審人は、宝進丸の新造時から船主船長として乗り組み、金華山沖の漁場に出漁し、1航海が1日ないし2日の操業を繰り返して年間に3,000時間ばかり主機を運転し、操船のほかに主機の運転保守にもあたり、毎年夏の休漁期に業者に依頼して主機の定期整備を行っており、平成6年7月に第1種中間検査の受検工事において主機を開放した際、業者によるピストンの抜出し整備及び空気冷却器冷却管内外の掃除などを行い、その後主機の運転を続けた。
ところが、主機は、過給機軸受部の潤滑油がブロワ側に漏れたかして、同油が給気に混入して空気冷却器冷却管の薄板に付着し、そこが更に給気中のごみなどの付着により次第に汚れた状態となり、給気の冷却が阻害され、出力が低下したものの、調速装置が回転数を制限して燃料油が燃焼室に余分に供給されることから、排気温度が上昇するとともに燃焼生成物のカーボン等が増加し、シリンダヘッドの触火面が汚れ、排気に黒煙が混じる燃焼不良の状況となった。
しかし、A受審人は、主機を運転中、同7年2月ごろ排気の黒煙が次第に増加していることを認めたが、排気色が悪いだけだから運転を続けても大丈夫と思い、業者に依頼するなどして異常箇所の調査を十分に行わなかったので、空気冷却器冷却管が前示の汚れた状態となっていることに気付かず、そのまま出漁を繰り返した。
こうして、宝進丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.45メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、同年6月25日03時00分宮城県渡波(わたのは)漁港を発し、04時30分金華山南方沖合の漁場に至って操業し、15時00分同漁港に向けて帰航の途に就き、主機を回転数毎分1,200の常用全速力にかけて10.0ノットの対地速力で航行中、燃焼不良の悪化により排気温度が著しく上昇し、各シリンダのピストンが過熱膨張してシリンダライナの摺(しゅう)動面に強く接触するようになり、15時30分金華山灯台から真方位173度5.5海里の地点において、主機の回転数が低下して変動し、煙突から多量の黒煙が排出された。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、海上は穏やかであった。
操舵室で操船していたA受審人は、主機の回転数の変動に気付いて減速したものの、損傷状態等が分からないまま、運転の継続を断念し、主機を停止した。
宝進丸は、僚船により渡波港に曳(えい)航され、主機を精査した結果、空気冷却器冷却管の薄板が著しく汚れており、全シリンダのピストン頂面に亀(き)裂及びシリンダライナの摺動面にかき傷等の損傷を生じているのが判明し、各損傷部品を新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、主機が給気の冷却阻害により排気に黒煙が混じる燃焼不良の状況になった際の異常箇所の調査が不十分で、排気温度が著しく上昇したまま運転が続けられ、ピストンが過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、過給機及び空気冷却器を付設した主機の運転保守にあたり、排気の黒煙が増加する状況になった場合、異常箇所を特定して整備を行うよう、業者に依頼するなどして異常箇所の調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、排気色が悪いだけだから運転を続けても大丈夫と思い、異常箇所の調査を十分に行わなかった職務上の過失により、空気冷却器冷却管が汚れて給気の冷却が阻害され、燃焼不良が悪化して排気温度が著しく上昇した状態のまま運転し、ピストンの過熱損傷を招き、運転の継続ができなくなる事態を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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