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1998年(平成10年)

平成9年函審第67号
    件名
漁船第五やまさん丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年7月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、米田裕、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第五やまさん丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
ピストン及びシリンダライナに著しいかき傷、クラウン締付けボルトのねじ部が磨滅

    原因
整備業者のクラウン締付けナットの取扱不適切

    主文
本件機関損傷は、整備業者が、ピストンのクラウン締付けナットの取扱いが不適切で、運転中、同ナットが緩んだことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月22日09時35分
北海道利尻島南西方沖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五やまさん丸
総トン数 160トン
全長 38.10メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 860キロワット
回転数 毎分590
3 事実の経過
第五やまさん丸(以下「やまさん丸」という。)は、昭和58年6月に進水し、沖合底びき網漁業に従事する鋼船で、主機として富士ディーゼル株式会社が製造した6M28型ディーゼル機関を、推進器として可変ピッチプロペラを装備し、主機の各シリンダには、船首方から順に1ないし6番の番号が付されていた。
主機のピストンは、クラウンとスカートとが4組の締付けボルト及び同ナットで結合された組立て式で、組立て手順は、クラウン頂部内側に植え込まれた同ボルトをスカート頂部のボルト穴に通し、続いて平座金1枚、さらばね座金2枚、平座金1枚及び2本の締付けボルトにわたって通すようになっている舌付き座金(以下「二連舌付き座金」という。)1枚を順に挿入し、次に同ナットを2枚のさらばね座金が密着するまで一杯に締め付けたのちこれを90度戻し、二連舌付き座金の突出し部をナットの側面沿いに折り曲げて回り止めを施すようになっていた。なお、二連舌付き座金は、厚さ1ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鋼板製であった。
クラウン締付けナットは、中心部に呼び径16ミリ、ピッチ1.5ミリのねじ穴が設けられた二面幅24ミリ高さ13ミリの鋼製六角ナットで、頂面と座面の六角部には、ともに面取りが施されていたが、頂面側は、ボルト穴周縁部の幅2.5ミリ部分が周辺部より1.0ミリ高くなっていて、平面になっている座面側と見分けられるようになっていた。
やまさん丸は、休漁期間中の平成8年8月下旬に船体及び機関の定期整備を行うことになり、北海道稚内市所在のA株式会社に上架し、B指定海難関係人が工事担当責任者として機関関係工事の指揮監督に当たり、協力会社である有限会社Bが主機の開放整備工事を請け負い、C指定海難関係人が作業責任者として同工事が行われた。
B指定海難関係人は、主機のピストン抜き出し前、C指定海難関係人に構造の説明などとともに、クラウンとスカートを組み立てるとき、クラウン締付けナットの頂面と座面とを間違わないように、更に、同ナットを2枚のさらばね座金が密着するまで一杯締めたのち90度戻すようにと具体的に指示して作業に当たらせた。
C指定海難関係人は、自社作業員3人のほかアルバイト工員3人を指揮し、主機ピストンの全数を抜き出して工場に持ち運んで分解整備に当たり、クラウン及びスカートの組立て作業を自分1人で行ったが、クラウン締付けナットの頂面を座面と思い込み、全ピストンの同ナットを裏返しに装着したのち正規の手順で締め付けた。そのため頂面側が締付け面となり、二連舌付き座金は、締付けナットが正常のときに比べ、接触面積が30パーセントに減少したことから3倍強の荷重を受けて全ピストンが組み立てられた。
B指定海難関係人は、ピストンを工場に持ち運び分解したとき、異常摩耗の有無、カラーチェックによる亀(き)裂の有無などを点検し、その後、入渠中の他船の機関工事の見回りや立会いに従事し、前示のクラウン及びスカートの組立て作業に立ち会っていなかったので締付けナットが裏返しに装着されて締め付けられていることに気付かなかった。
また、A受審人は、C指定海難関係人がピストンを工場に持ち運んで分解したとき立ち会い、亀裂や摩耗状況を点検するとともに取替えに必要な部品などについて指示をしたが、クラウン及びスカートの組立てについては、同指定海難関係人が判断できないようなときには連絡を受けることになっていたことから、乗組員とともに発電機用ディーゼル機関の整備に当たり、その組立てに立ち会っていなかったので締付けナットが裏返しに装着されて締め付けられていることに気付かなかった。その後、同受審人は、主機のピストンを組み立てたのち、ピストンリングの装着状況などを点検し、クラウンとスカートとの外周締付け部の隙(すき)間の計測に立ち会うなどし、また、ピストンをシリンダに挿入するとき、ピストンとシリンダライナとの隙間の計測に立ち会うなどした。
翌9月上旬やまさん丸は、船体及び機関の整備工事を終え、同月16日から連日、深夜に出港して翌日昼ごろ入港する操業を繰り返すうち、主機5番ピストンの二連舌付き座金が叩(たた)かれて破断し、同ナットが徐々に緩むとともに同ピストンの他のクラウン締付けナットも次々と叩かれて緩みを生じるようになった。
こうして、やまさん丸は、同月21日23時00分稚内港を発して北海道利尻島南西方沖の漁場に向かい、翌22日03時ごろ同漁場に至って操業を開始し、主機を回転数毎分660、プロペラ翼角を19度として曳(えい)網中、09時35分仙法志埼灯台から真方位223度20.3海里の地点において、5番ピストンのクラウン締付けナットが全数脱落し、クラウンとスカートとが離脱して異音を発した。
当時、天候は晴で風はなく、海上は穏やかであった。
機関室当直中のA受審人は、叩(たたき)音に気付き主機を停止して調査し、クランク室底部にクラウン締付けナット及び座金が落ちているのを認め、5番ピストンを抜き出して点検した結果、ピストン及びシリンダライナに著しいかき傷、クラウン締付けボルトのねじ部に磨滅を生じるなどしており、運転不能と判断してその旨を船長に報告した。
やまさん丸は、救助を求め、付近で操業していた僚船により稚内港に曳航され、工場に依頼して5番のピストン及びシリンダライナを予備品と交換したのち漁場に戻って操業し、翌10月8、9日の荒天で休漁したとき、念のため他のピストンを調査したところ、いずれもクラウン締付けナットが裏返しに締め付けられていることが判明し、各ナットが正規に装着し直された。

(原因)
本件機関損傷は、整備業者が、ピストンのクラウン及びスカートを組み立てる際、クラウン締付けナットの取扱いが不適切で、同ナットを裏返しに装着し、運転中、二連舌付き座金が叩かれて破断し、同ナットが緩んだことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
C指定海難関係人が、主機ピストンのクラウン及びスカートを組み立てる際、クラウン締付けナットの頂面と座面とを裏返しに装着したことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、その後、頂面と座面とが異なる形状のナットの取扱いに当たって、元請業者に確かめるなどして適切な取扱いに努めている点に徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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