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1998年(平成10年)

平成9年函審第52号
    件名
漁船第27栄徳丸機関損傷事件(第2)

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

岸良彬、大島栄一、大石義朗
    理事官
山本宏一

    受審人
A 職名:第27栄徳丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
過給機のロータ軸、タービンケーシング、4番のピストン頂部及びシリンダヘッド触火面に打傷、シリンダライナにかき傷、連接棒に曲がり

    原因
修理が不十分、材料疲労を生じていた排気弁を継続使用

    主文
本件機関損傷は、主機排気弁が長期間にわたり整備されない状態で破損した際の修理が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年1月5日02時40分
北海道石狩湾
2 船舶の要目
船種船名 漁船第27栄徳丸
総トン数 19.85トン
登録長 17.82メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 422キロワット
回転数 毎分2.000
3 事実の経過
第27栄徳丸は、昭和55年10月進水の船首船橋型のFRP製漁船で、えびかご漁業等に従事し、同63年12月に主機を換装して、三菱重工業株式会社が同57年12月に製造したS8AF-MTK型と称するV型ディーゼル機関を備え、シリンダには、右舷列の船首から船尾にかけて1番ないし4番、左舷列の船首から船尾にかけて5番ないし8番と呼称する順番号が付されていた。
主機のシリンダヘッドは、いずれもきのこ弁型の吸気、排気各弁2個を備えた4弁式のもので、排気系統が、シリンダの右舷列及び左舷列の各列ごとに独立しており、過給機が各列の船尾側にそれぞれ装備され、煙突も船体の右舷側と左舷側に分かれて設置されていた。そして排気温度は船橋の電気式指示計に各過給機の入口温度のみが表示されるようになっていた。また、シリンダヘッドは、平成4年7月に主機の損傷事故が発生した際、全数が同型機関の中古品と交換されたものであり、かつ、吸気、排気各弁は、1番及び2番両シリンダヘッドのものが新替えされたほかは、従前のものが引き続き使用されていた。
A受審人は主機排気弁が長期間にわたり整備されない状態で破損しており、他の排気弁も材料疲労を生じているおそれのある状況であったが、少しでも早く操業に復帰しようと思い、修理に当たり、他の排気弁も新替えするなどの、十分な修理を行うことなく、業者に対して、当面8番シリンダ及び過給機の損傷した各部品のみ新替えするよう依頼し、翌4日修理を終えた。そして他の排気弁については、余裕期間のとれる翌年2月の漁種切替え時期に新替えする手配をとった。
こうして本船は、たら刺し網漁業の目的で、A受審人ほか5人が乗り組み、同業船6隻とともに、翌9年1月5日01時50分余市港を発し、主機を回転数毎分1,750にかけ、石狩湾沖合の漁場に向けて航行中、4番シリンダヘッドの排気弁1個が弁傘周縁部に生じていた亀裂の進展で破損し、破損片がピストン頂部とシリンダヘッドとの間に挟撃されたほか右舷列の過給機に侵入して、同日02時40分日和山灯台から真方位307度10.5海里の地点において、主機の回転が低下した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、海上は隠やかであった。
折から船橋で操船に当たっていたA受審人は、過給機から金属音を発しているのに気付いて直ちに主機を止め、前回と同様の事故が発生したものと判断し、本船は同航していた同業船に曳航されて発航地に戻り、業者による主機の開放調査が行われた結果、過給機のロータ軸、タービンケーシング、4番のピストン頂部及びシリンダヘッド触火面に打傷を、シリンダライナにかき傷を、連接棒に曲がりをそれぞれ生じていることなどが分かり、のちいずれも新替えされたほか、8番シリンダヘッドを除く全数の排気弁が新替えされた。

(原因)
本件機関損傷は、主機排気弁が長期間にわたり開放整備されない状態で破損した際の修理が不十分で、材料疲労を生じていた排気弁が継続使用されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機排気弁が長期間にわたり整備されない状態で破損した際の修理に当たる場合、他の排気弁も材料疲労を生じているおそれがあったから、他の排気弁も新替えするなどの、十分な修理を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、少しでも早く操業に復帰しようと思い、十分な修理を行わなかった職務上の過失により、排気弁の破損を招き、ピストン、シリンダライナ及び過給機などに打傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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