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1998年(平成10年)

平成9年門審第65号
    件名
漁船第二十八進漁丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年1月23日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

杉?忠志、川本豊、藤江哲三
    理事官
内山欽郎

    受審人
A 職名:第二十八進漁丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
シリンダヘッド触火面に著しい腐食

    原因
主機冷却海水の温度管理不十分

    主文
本件機関損傷は、主機冷却海水の温度管理が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月5日19時
鹿児島県奄美大島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八進漁丸
総トン数 59.47トン
登録長 24.53メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 404キロワット
3 事実の経過
第二十八進漁丸(以下「進漁丸」という。)は、昭和54年2月に進水した、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として、株式会社新潟鉄工所が製造した計画回転数毎分720の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を備えていたが、同機は連続最大出力735キロワット同回転数毎分1,100の6MG22X型と称する機関に、出力制限装置を付設して漁船法馬力数を300としたもので、操舵室から主機の遠隔操縦ができるようになっており、就航後に同制限装置が取り外され、航行中の全速力前進の回転数を毎分950までとしていた。
主機は、海水冷却方式で、船底の海水吸入弁から直結の冷却海水ポンプにより吸引加圧された冷却海水が、潤滑油冷却器及び空気冷却器を経て冷却海水入口主管に至り、同入口主から各シリンダへの枝管に分岐し、それぞれのシリンダライナ及びシリンダヘッドを順に冷却して冷却海水出口集合管を通り、機関室右舷側船首方の水面下の外板に設けられた船外排出弁から排出されるようになっていた。
主機のシリンダヘッドは、特殊鋳鉄製で、船首方から1番ないし6番までの順番号が付され、その中央部に燃料噴射弁を装着する弁孔が設けられており、同孔の周囲には各2個ずつの排気弁と吸気弁、各1個ずつの始動空気弁、指圧器弁などの弁孔が設けられていたほか、シリンダヘッドの内部には過給機により加圧された吸気の通路が左舷側に、排気弁を出て排気集合管に至る排気ガスの通路が右舷側にそれぞれ設けられていて、燃焼ガスにより各部が過熱することのないよう、それぞれの弁孔及び通路の周囲には複雑な形状をした冷劫水室が設けられていた。
ところで、主機のシリンダヘッドは、シリンダライナを冷却した冷却海水が、冷却水連絡管を通ってシリンダヘッド下面から冷却水室に流入して各部を冷却したのち、シリンダヘッドの右舷側上面に取り付けられたベンド管で冷却海水出口集合管に導かれていたが、燃焼ガスから生じた酸性の生成物(似下「硫酸」という。)及び冷却海水による腐食作用などの影響を受けてシリンダヘッドが衰耗するほか、高温の燃焼ガスに触れる部分と冷却海水の通る低温の冷却水室との間の熱負荷の影響も受けてその疲労強度が低下し、排気弁、燃料噴射弁などの弁孔に亀(き)裂を生じて破孔することがあるので、主機取扱説明書にはシリンダヘッド出口冷却海水温度を摂氏40度ないし50度に調整のうえ主機の運転を行うよう記載されていた。
A受審人は、平成3年1月にBと共同で進漁丸を購入して機関長として乗り組み、宮崎県大堂津漁港を基地として、南西諸島周辺の漁場でかつお一本釣り漁業に従事し、1航海が5日ないし7日間で、1月下旬から11月下旬まで操業を繰り返していた。
A受審人は、主機のピストン、吸・排気弁などの整備を1年ないし2年ごとに、燃料噴射弁のチップの取替えと噴射テストを3箇月ないし4箇月ごとにそれぞれ行っていたほか、シリンダヘッド、シリンダジャケット、潤滑油冷却器などに取り付けられている防食亜鉛の取替えを12月上旬から翌年1月下旬にかけての休漁期に入渠して行いながら、昼間の操業中には同人ほか2人の機関員による単独4時間から6時間交替の機関当直体制を採り、主機のシリンダヘッド出口冷却海水温度、潤滑油圧力、各シリンダの排気温度などを計測して機関日誌に記入し、1箇月間に約500時間運転していた。
同4年12月に入渠したA受審人は、主機のピストン抜き整備のため全てのシリンダヘッドを開放したところ、シリンダヘッド触火面の全面に硫酸による著しい腐食が生じていたうえ、燃料噴射弁や排気弁などの各弁孔の周辺にも激しいあばた状の腐食が発生しているのを認め、特に腐食が著しく進行していた2番シリンダヘッドを手持ちのものと取り替えた。このとき、同人は、関係先からシリンダヘッドの手配がつかなかったので、ほかのシリンダヘッドの取替えを翌5年12月に入渠した際に行った。
また、シリンダヘッドの異常を認めたA受審人は、鉄工所の担当技士から、操業中、主機への冷却海水の流量を調整しないまま運転を続けると、シリンダヘッド出口冷却海水温度が著しく低下して主機が過冷却の状態となり、シリンダヘッド各部が硫酸により腐食されて破孔を生じるおそれがあるので、直結の冷却海水ポンプの吐出側と冷却海水出口集合管の出口側との間にバイパス回路を設け、同海水温度を適正なる温度に調整して主機の燃焼状態を向上させるとともに、腐食の発生などをできるだけ防止するよう助言を受けたことから、鉄工所に依頼して呼び径50ミリメートルの海水管とバタフライ弁(以下「バイパス弁」という。)を用いてバイパス回路を新設した。
ところが、A受審人は、漁場においては主機を全速力前進にかけて魚群探索を行い、1日に10回ばかり行っていたかつお一本釣り操業中には主機を低負荷の中立運転のままとし、20時ごろから翌日04時ごろまでの間主機を停止して漂泊を繰り返していた。しかしながら、同人は、各シリンダヘッドを取り替えたばかりで、まだ使用時間が短いので問題はあるまいと思い、新設したバイパス弁の開度を適宜調節して、主機冷却海水の温度管理を十分に行うことなく、基地を出港する際にバイパス弁を微開しただけで、シリンダヘッド出口冷却海水温度が低い状態のまま主機の運転を続けていた。
その後、主機は、全てのシリンダヘッドの排気弁の弁孔などが硫酸により著しく腐食されて衰耗し、なかでも疲労強度が低下した3番シリンダヘッドの同弁の弁孔間にいつしか微小な亀裂を生じ、これが進行して冷却海水が燃焼室内に漏水するおそれのある状況となった。
こうして、進漁丸は、A受審人ほか11人が乗り組み、船首1.40メートル船尾2.20メートルの喫水をもって、同8年7月1日22時大堂津漁港を発し、同月4日午後に鹿児島県奄美大島北西方沖合の漁場に至って操業を繰り返しているうち、翌5日19時北緯28度45分東経128度25分の地点において、主機を回転数毎分930の全速力前進にかけて魚群探索中、3番シリンダヘッドの排気弁の弁孔間に生じた亀裂が進行して冷却海水側に達し、冷却海水の燃焼室内への漏水が生じ始め、煙突から水蒸気となった冷海水が排出されて排気ガスが異常に白変するとともに、主機の回転が徐々に低下した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、海上は平穏であった。
甲板上にいたA受審人は、主機の異常に気付いて急ぎ機関室に赴き、3番シリンダヘッド及びベンド管が著しく発熱しているのを認めて主機を停止し、3番シリンダの指圧器弁を開弁したところ、同弁から多量の海水が流出したことから運転不能と判断し、事態を船長に報告した。
進漁丸は、僚船により大堂津漁港に引き付けられ、同地において主機を開放して精査した結果、シリンダヘッド触火面に著しい腐食が生じていることが判明し、全てのシリンダヘッドの取替えを行った。

(原因)
本件機関損傷は、海水冷却方式の主機の運転を行うに当たり、主機冷却海水の温度管理が不十分で、過冷却の状態で主機の運転が続けられ、冷却海水及び排気ガスによる腐食作用によりシリンダヘッドが著しく衰耗して疲労強度が低下し、弁孔間に亀裂を生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、海水冷却方式の主機の運転を行う場合、過冷却の状態で主機の運転を続けると、シリンダヘッド触火面などに排気ガスから生じた酸性の生成物による著しい腐食が生じて亀裂を生じるおそれがあったから、運転中のシリンダヘッド出口冷却海水温度が適正となるよう、直結の冷却海水ポンプと冷却海水出口集合管間に設けられたバイパス弁の開度を調整するなどして、主機冷却海水の温度管理を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、各シリンダヘッドを取り替えたばかりで、まだ使用時間が短いので問題はあるまいと思い、主機冷却海水の温度管理を十分に行わなかった職務上の過失により、主機が過冷却の状態となり、シリンダヘッド触火面の腐食が著しく進行して排気弁の弁孔間に亀裂を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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