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1998年(平成10年)

平成9年函審第39号
    件名
漁船第八宝喜丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年1月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

岸良彬、大島栄一、平野浩三
    理事官
山本宏一

    受審人
A 職名:第八宝喜丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
4番のピストン、シリンダライナ及び連接棒並びにクランク軸の4番クランクピンに焼損、4番燃料噴射ポンプのローラ及びカムの各表面に打傷

    原因
外部から視認できない主機燃料加減軸が位置ずれを起こし、同軸と燃料噴射ポンプとの連結部が外れ、主機が過回転を起こしたこと

    主文
本件機関損傷は、外部から視認できない燃料加減軸が位置ずれを起こし、同軸と燃料噴射ポンとの連結部が外れ、主機が過回転を起こしたことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年7月18日02時30分
北海道野付水道
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八宝喜丸
総トン数 138トン
全長 36.47メートル
機関の種類 過給機付4サイクル5シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,103キロワット
回転数 毎分1,000
3 事実の経過
第八宝喜丸は、昭和60年3月に進水した、さけ・ます流し網漁業等に従事する鋼製の漁船で、可変ピッチプロペラを有し、主機として、株式会社新潟鉄工所が同年1月に製造した5PA5L型と称するディーゼル機関を備え、シリンダには船尾側を1番とする順番号が付されていた。
主機の燃料噴射ポンプは、ボッシュ型で、各シリンダごとに装備され、本体の大部分が架構左舷側のカムケース内に納められており、頂部のみが架構から露出して、これに燃料高圧管、燃料油供給管及び潤滑油管が接続しているのが見えるのみで、燃料加減軸は視認できない構造となっていて、各シリンダごとに設けられたカムケース扉を取り外すことにより、同軸の点検ができるようになっていた。また、同ポンプのラックは、ポンプ本体に内蔵されており、ラックと結合しているラックレバーが装着されていて、同レバーを作動させることにより燃料噴射量を制御する機構となっていた。
燃料加減軸は、長さ1,790ミリメートル(以下「ミリ」という。)径25ミリの中実丸棒状のもので、ブッシュ1個とすべり軸受2個とで支えられ、架構最前部の調時歯車室とカムケースとを縦通するように取り付けられおり、同軸前端部に燃料加減軸レバーが取り付けられていて、調速機リンクが同レバーと連結して同軸を回転させる機構となっていた。このほか同軸には、固定レバー、ねじりコイルばね及び調整レバーで構成されるラック作動機構が5組装着されており、同機構とラックレバーとの連結方法は、調整レバーの船首側にラックレバーを当てがったうえ、船尾側からこれらを貫通するようにラックボルトをねじ込むものであった。また、ブッシュは、長さ44ミリ外径31ミリ内径25ミリで、調時歯車室と5番カムケースとの間の肉厚28ミリの仕切り壁に締め代をつけて圧入され、5番シリンダのラック作動機構とブッシュとの間の燃料加減軸の外周に、ブッシュの位置決め用の円筒状のカラーが挿入されていた。
ところで、ラックボルトとラックレバーとの連結部は、同ボルトの丸棒状をした先端部が同レバーの穴に、船尾側から船首側に向けて約10ミリ差し込まれているのみで、同ボルトが所定位置から船尾側に移動して約10ミリの位置ずれを生じると、同ボルトが穴から抜け出すこととなって、燃料加減軸と燃料噴射ポンプとの縁が切れ、同ポンプが制御不能状態に陥ることとなるので、機関メーカーでは、同連結部の状態と燃料噴射ポンプのラックの作動状態とを確認する目的で、運転時間が3,000時間に達するか、若しくは6箇月ごとに、カムケース扉を取り外して、ラック作動機構の調整レバーを手で動かし、ラックレバーがねじりコイルばねにより、円滑かつ確実に作動するかどうかを点検するよう、機関取扱説明書に記載していた。
A受審人は、かつて本船に操機長として乗り組んだ経験を有し、8年ぶりに機関長として乗り組むこととなり、平成7年4月下旬岩手県釜石市所在の造船所において、第一種中間検査工事終了後の本船に回航要員として着任し、翌5月1日北海道厚岸港へ回航後も引き続き機関の運転管理に当たっていた。
その後、本船は、2箇月ばかり択捉島北方海域での日露合弁事業のさけ・ます流し網漁業に従事していたところ、主機燃料加減軸のブッシュが長年にわたる振動の影響で外周表面に摩耗を生じて緩みはじめ、船尾側に抜け出す状況となり、カラーがブッシュに押し付けられて同軸全体が船尾側に移動するようになった。
しかしながら、A受審人は、前示工事において全数の主機燃料噴射ポンプが陸揚整備後に正常に取り付けられたこと及びその後の運転時間が約1,000時間しか経過していないことを承知しており、ラックの作動状態の点検周期に達していなかったことから、燃料加減軸の位置ずれを察知することができないまま運転を続けていた。
こうして本船は、船首1.20メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、ロシア連邦の漁業監督官を本国に送り届ける目的で、A受審人ほか3人が乗り組み、同官2人を乗せ、同年7月17日15時20分釧路港を発し、主機回転数を毎分1,000、翼角を17.5度としてコルサコフ港に向け航行中、燃料加減軸の位置ずれが進行し、やがて2番、3番及び4番各燃料噴射ポンプのラックレバーがラックボルトから外れて制御不能となり、4番燃料噴射ポンプの噴射量がひとりでに増え、排気温度が上昇しはじめるとともに、過給機が過回転を起こしてロータ軸のタービン側及びブロワ側の両軸受が焼損しはじめた。
翌18日02時30分少し前機関室当直に就いていたA受審人は、4番シリンダの排気温度が他シリンダより約30度(摂氏、以下同じ。)上昇して約470度に上昇しているのを認め、直ちに主機を点検する旨を船橋当直者に伝え、02時30分薫別灯台から真方位110度7.8海里の地点において、船橋当直者が翼角を0度とし続いて減速機のクラッチを脱とし、無負荷運転状態としたところ、主機が過回転を起こしたので、機側の燃料ハンドルを停止位置に操作したものの、主機が止まらず、次いで燃料主管入口弁を閉弁しようとしたとき、過給機のロータ軸が振れ回ってブロワケーシングが破損し、給気量不足となって主機が自停した。
当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、海上には小波が立っていた。
A受審人は、過給機が大音響を発し、かつ、機関室内に水蒸気が立ち込めてきたので危険を感じ、同室を脱出してしばらく様子を見てから戻ったところ、床面に過給機の破損片が散乱しているのを認め、主機の運転を断念した。
航行不能となった本船は、付近を航行中の僚船に引かれて厚岸港に帰着後、機関メーカーによる主機の開放調査が行われた結果、4番のピストン、シリンダライナ及び連接棒並びにクランク軸の4番クランクピンに焼損を生じていたほか、4番燃料噴射ポンプのローラ及びカムの各表面に打傷を生じていること等が分かり、損傷部品がいずれも新替えされた。また、燃料加減軸の移動防止策として、軸受部の船首及び船尾両側に二つ割れ方式のカラーが取り付けられた。

(原因)
本件機関損傷は、中間検査工事後、短期間のうちに、外部から視認できない主機燃料加減軸がブッシュの経年摩耗により位置ずれを起こし、同軸と燃料噴射ポンプとの連結部が外れ、減速操作がとられた際、同ポンプの制御が不能となって、主機が過回転を起こしたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受番人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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