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1998年(平成10年)

平成9年函審第48号
    件名
漁船第二十八新宝丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年1月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

岸良彬、大島栄一、平野浩三
    理事官
山本宏一

    受審人
A 職名:第二十八新宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
1番のシリンダライナ、シリンダヘッド及び連接棒に割れと打傷、2番及び5番の各ピストンとシリンダライナとにかき傷、クランク軸の全数のピン部及びジャーナル部に焼損

    原因
主機の運転監視不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の運転監視が不十分で、主機の警報音を聞く措置がとられなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月6日19時30分
北海道室蘭港南東沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八新宝丸
総トン数 14トン
登録長 16.49メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 279キロワット
回転数 毎分1,900
3 事実の経過
第二十八新宝丸は、昭和60年3月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製の漁船で、主機として、三菱重工業株式会社が製造したS6AG-MTK型ディーゼル機関を備え、シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
主機の冷却は、清水による密閉加圧循環方式で行われ、清水冷却器内蔵の圧力キャップ付き清水膨脹タンクを有し、主機直結の冷却清水ポンプにより同タンクから吸引された清水が、潤滑油冷却器、シリンダジャケット、シリンダヘッド及び排気マニホルドを経て再び同タンクに戻るようになっていた。
冷却海水系統は、主機直結の海水ポンプにより海水吸入弁から吸引された海水が、空気、逆転減速機潤滑油及び清水の各冷却器を冷却したのち、船外吐出口から排出されるようになっていた。
ところで、冷却清水温度が摂氏98度を超えると、冷却水温度上昇警報装置が作動して、船橋内の警報ブザー、又は、機関室内の警報ベルのいずれかの警報を発するようになっており、警報ブザーは音量の関係で船橋内のみで聴取可能であったが、警報ベルは賄室など船内の広範囲にわたって聴取可能で、警報音を船橋、機関室のいずれに発生させるかを選択する警報切換えスイッチが装備されていた。
A受審人は、平成4年2月中古の本船を購入して以来乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも当たり、毎年九州沖合から日本海を北上して基地を移動しながら北海道に至るいか一本釣り漁業に従事し、函館港に戻った際、主機のピストン抜き整備、潤滑油の新替え及び同油こし器の開放整備などを同地の機関整備業者に依頼しており、同8年7月これらの整備を行ったのち同港を基地として操業を続け、9月になって2箇月ごとに実施している潤滑油の新替えを自ら行った。
本船は、船首1.00メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、操業の目的で、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、翌10月6日13時30分函館港を発し、同日19時ごろ室蘭港南東沖合の漁場に至り、パラシュート型シーアンカーを投入して漂泊し、主機を回転数毎分1,800にかけ、主機駆動の集魚灯用発電機を運転しながら操業を開始した。
19時15分A受審人は、甲板員とともに食事をとるため一時的に船橋を離れて賄室に赴くこととしたが、短時間のうちに船橋に戻るので大丈夫と思い、賄室でも主機の運転監視ができるよう、警報切換えスイッチを船橋から機関室に切り換えることなく、食事の準備をしているうち、主機冷却海水系統の海水吸入口の目皿に浮遊ビニール片を吸着したかして冷却海水が途絶し、冷却水温度上昇警報装置が作動して船橋内の警報ブザーが鳴ったことに気付かないまま、同時25分食事をとりはじめた。
こうして本船は、主機が冷却阻害の状態で運転が続けられているうち、1番ピストンが膨張してシリンダライナに焼き付き、ピンボス部で上下に割れ、連接棒の小端部が振れ回って架構を突き破り、19時30分チキウ岬灯台から真方位128度12.8海里の地点において、主機が大音を発するとともに、集魚灯が消えた。
当時、天候は曇で風力4の南東風が吹き、海上には白波が少し立っていた。
A受審人は、機関室に急行し、床面上に金属片が散乱しているのを認めて救援を求め、本船は僚船により発航地に引き付けられた。
その後、主機の開放調査が行われた結果、前示損傷のほか1番のシリンダライナ、シリンダヘッド及び連接棒に割れと打傷とを、2番及び5番の各ピストンとシリンダライナとにかき傷を、クランク軸の全数のピン部及びジャーナル部に焼損を生じていることなどが分かり、のち他の機関と換装された。

(原因)
本件機関損傷は、操業中、一時的に船橋を離れて賄室に赴くにあたり、主機の運転監視が不十分で、賄室で主機の警報音を聞く措置がとられず、冷却海水が途絶して冷却水温度上昇警報装置が作動したとき、そのまま冷却阻害の状態で運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機駆動の集魚灯用発電機を運転しながら操業中、一時的に船橋を離れて賄室に赴く場合、賄室で船橋の警報ブザー音が聞こえず機関室の警報ベル音を聞くことができたから、主機の運転監視ができるよう、警報切換えスイッチを船橋から機関室に切り換えるべき注意義務があった。ところが、同人は、短時間のうちに船橋に戻るので大丈夫と思い、警報切換えスイッチを船橋から機関室に切り換えなかった職務上の過失により、冷却水温度上昇警報装置が作動していることに気付かず、冷却阻害の状態で運転が続けられてピストンの焼付きを招き、ピストンの割れを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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