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1998年(平成10年)

平成9年横審第10号
    件名
漁船第三十二大師丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年6月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

河本和夫、半間俊士、川原田豊
    理事官
花原敏郎

    受審人
A 職名:第三十二大師丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
3番シリンダ右舷側の吸気弁割損、過給機タービンのノズルリング、ローター羽根等が損傷

    原因
主機吸気弁の探傷検査不十分

    主文
本件機関損傷は、主機吸気弁の探傷検査が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月23日09時00分
潮岬南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十二大師丸
総トン数 190トン
登録長 36.58メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 860キロワット
回転数 毎分560
3 事実の経過
第三十二大師丸は、昭和59年1月に進水した大中型まき網漁業船団の鋼製運搬船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したZ280ET2型ディーゼル機関を据え付け、操舵室から主機の遠隔操縦ができるようになっていた。
主機は、連続定格回転数毎分650(以下、回転数は毎分のものを示す。)の機関に、燃料噴射制限装置を取り付けたものであるが、就航後に同装置が取り外され、航海中の全速力前進の回転数を630までとして運転されていた。また、各シリンダは船首側から順番号で呼称され、燃料としてA重油が使用されていた。
主機の給気は、過給機により圧縮された空気が空気冷却器で冷却され、給気管から各シリンダに2個設けられた吸気弁を経てシリンダ内に送られ、給気管には底部にドレンコックを設けてあるほか、船首側端の高位置に給気圧調整弁が設けられて、過給機がサージングするときには、同調整弁から給気を逃がしてサージングを避けるようになっていた。
ところで主機の吸気弁は、バルブローテーター付きで、耐熱鋼を母材とし、弁座との当たり面にステライトが盛金されたものであったが、長期間使用すると腐食、摩耗などが亀(き)裂や割損に発展するおそれがあることから、保守整備ついては8,00ないし12,000時間ごとあるいは2年ごとに各部を測定して使用限度内にあることを確認し、特に弁座との当たり部を詳細に点検した上で摺(す)り合わせ整備するように取扱説明書に記載され、平成6年2月中間検査時には全12本の吸気弁のうち8本が新替えされていた。
本船は、同7年までは周年操業に従事していたが、同年からは4月中旬から9月上旬にかけての約5箇月間のかつお・まぐろ漁にのみ従事し、それ以外の期間は他の運搬船が故障したときの代船として使用されるほかは係留されたまま10日ごとに2時間程度保守目的で主機が運転されるだけで、以後の主機運転時間は年間約2,500時間であった。
A受審人は、同年1月本船に機関長として乗り組んだとき、主機は給気管のドレンコックを閉め、給気圧調整弁を開けて運転され、給気温度は取扱説明書に記載された範囲内に調整されていたものの、運転中に給気圧調整弁から水滴が吹き出る状態で、梅雨時などは更にその量が多くなる状態であったが、そのまま引き継いで同じ取り扱いを続けた。
そして同81月定期検査で主機を整備する際、3番シリンダの吸気弁使用時間が約20,000時間となっており、右舷側の吸気弁は盛金境界付近で、水分存在中の異種金属間の局部電池作用により腐食して微小亀裂が生じており、カラーチェックなどの探傷検査により同腐食状態を認めることができる状況であったが、A受審人は、吸気弁の使用時間や整備来歴を調査しないまま、同シリンダの吸気弁が長期間取り替えられずに使用されていることを知らず、吸気弁の摺り合わせを整備業者に任せておけば大丈夫と思い、衰耗計測や探傷検査を指示せず、摺り合わせ後も吸気弁の探傷検査を十分行わなかった。
こうして本船は、同定期検査後同年4月中旬から操業に従事し、主機3番シリンダ右舷側吸気弁の前示腐食部に運転中の繰り返し応力を受け、亀裂が進行する状況のもと、翌5月20日A受審人ほか6人が乗り組み、静岡県戸田漁港を発し、同月22日和歌山県潮岬南東方沖合の漁場に至って操業を始め、翌23日魚群探索に従事して主機回転数を300の停止回転から630を目標に増速中、同日09時00分北緯32度44分東経136度14分の地点において、亀裂が進行していた3番シリンダ右舷側の吸気弁が割損し、その破片が過給機タービン内部に飛び込んでノズルリング、ローター羽根等が損傷し、過給機が異音を発し、煙突から黒煙を排出した。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
魚見台にいたA受審人は、黒煙に気付いて機関室に赴き、主機を点検して吸気弁の割損を認め、操業不能の旨を船長に報告した。
本船は、操業を打ち切って低速回転で和歌山県勝浦港に入港し、全吸気弁及び損傷部品を取り替えて主機が修理された。

(原因)
本件機関損傷は、吸気弁を摺り合わせ整備する際、腐食が生じやすい雰囲気で長期間使用されていた吸気弁の探傷検査が不十分で、異種金属間の局部電池作用により腐食して微小亀裂が生じていた吸気弁が取り替えられず、運転中同亀裂が進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、吸気弁を摺り合わせ整備する場合、主機は停止期間が長く、運転中は給気圧調整弁から水滴が吹き出るほど給気管にドレンがたまるなど腐食が生じやすい雰囲気にあったから、腐食による亀裂などを見落とすことのないよう、探傷検査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、整備業者に任せておけば大丈夫と思い、探傷検査を十分に行わなかった職務上の過失により、腐食して微小亀裂が生じていた吸気弁を取り替えないまま主機を運転し、吸気弁の割損、過給機損傷などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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