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1998年(平成10年)


平成9年仙審第11号
    件名
漁船大光丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

安藤周二、?橋昭雄、供田仁男
    理事官
小野寺哲郎

    受審人
A 職名:大光丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
4番主軸受メタル焼損、クランク軸焼付き、7番主軸受付推力軸受メタル異常摩耗及びシリンダブロック変形

    原因
主機が冷却阻害により過熱状態で運転されたこと及び機関台の据付けボルトの点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機が冷却阻害により過熱状態で運転されたこと及び機関台の据付けボルトの点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年2月14日16時00分
青森県青森市
2 船舶の要目
船種船名 漁船大光丸
総トン数 19.08トン
登録長 14.52メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 308キロワット
回転数 毎分1,900
3 事実の経過
大光丸は、昭和47年5月に進水したいか一本釣り漁業に従事する木製漁船で、同62年9月に三菱重工業株式会社が製造したS6A2-MTK型と称するディーゼル機関1基を備え、その船首側に動力取出軸を介して駆動される交流発電機などを、船尾側に逆転減速機をそれぞれ設置し、操舵室に主機の遠隔操縦装置及び警報装置を装備していた。
主機は、各シリンダのシリンダヘッドが6シリンダ一体型のシリンダブロックの上端にガスケットを挿入して接合され、シリンダブロックのクランク室各隔壁に懸垂して装着された主軸受によりクランク軸が支持されており、各主軸受には船首側を1番として7番までの順番号が付されていた。また、主機は、間接冷却方式で、渦巻式令却清水ポンプ及び回転式冷却海水ポンプを付設していた。
ところで、主機は、機関取付け足がシリンダブロック側面下部の四隅に設けてあり、同取付け足が機関室底部の木製船体骨材に設置された左右2列の鋼製機関台上に固定されていて、更に同台が片列当たり10組の据付けボルトとナットで同船体骨材に取り付けられる構造になっていたが、運転を続けるうちに同ボルトの締付けが緩むと主軸受とクランク軸との軸心が偏移するので、業者に依頼するなどして、定期的に同ボルトを点検し、その締付けの緩みを発見して増締めを行うことが大切であった。
A受審人は、同62年4月に大光丸の甲板員として乗り組み、平成3年2月ごろ青森県小泊漁港(下前)で停泊した際、冷却清水ポンプ駆動用Vベルトが衰耗して切断し、主機が過熱状態のまま運転され、その後シリンダヘッド接合面から燃焼ガスが漏れるようになっていたところ、同年4月に同船の船長に昇進し、操業に従事するとともに主機の運転保守にもあたり、シリンダヘッドを整備する目的で、業者に依頼してガスケットを交換する措置をとり、出漁を繰り返しているうち、同5年春には冷却海水ポンプのゴム製インペラの衰耗折損によりまたも主機が過熱状態のまま運転され、再び同接合面から燃焼ガスが漏れたので、同年9月に業者による同ガスケットの交換を行った。
しかし、主機は、再度にわたり冷却阻害による過熱状態で運転されたことから、シリンダブロックが熱歪(ひずみ)を生じて変形し、更に機関台の据付けボルトの点検や増締めが長期間行われないまま運転されているうち、次第に同ボルトの締付けが緩むようになっていた。
同6年9月A受審人は、燃焼ガスの漏れで生じたシリンダヘッド接合面の吹抜け傷を整備する措置をとったが、同ガスの漏れのほかには特に異状がないものと思い、業者に依頼するなどして、機関台の据付けボルトを点検しなかったので、同ボルトの締付けが緩んでいるのに気付かず、やがて主軸受とクランク軸との軸心が偏移し、同軸受の潤滑が阻害される状況のまま運転を続けた。
こうして、大光丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、同7年6月24日03時10分小泊漁港(下前)を発し、同県八戸港沖合の漁場に至り、その後順次漁場を同漁港沖合等に移動し、越えて12月11日主機運転中、シリンダヘッド接合面から燃焼ガスが漏れたが、休漁期にようやく主機を陸揚げして整備することとなり、同8年2月上旬操業を終えて同漁港に帰港した。主機は、同漁港で陸揚げされる際、機関台の据付けボルトの締付けに緩みが認められ、青森市に所在するA株式会社工場に搬入されたのち、同月14日16時00分同工場において、4番主軸受メタルの焼損、クランク軸の焼付き、7番主軸受付推力軸受メタルの異常摩耗及びシリンダブロックの変形などの損傷が発見された。
当時、天候は曇で風力4の西風が吹いていた。
その結果、損傷部品が新替えされた。

(原因)
本件機関損傷は、主機が冷却阻害により過熱状態で運転されてシリンダブロックに熱歪を生じたこと及び機関台の据付けボルトの点検が不十分で、同ボルトの締付けが緩んだまま運転が続けられ、主軸受とクランク軸との軸心が偏移したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、機関取付け足を固定した機関台が船体骨材に据付けボルトで取り付けられた主機の運転保守にあたる場合、同ボルトの定期的な点検や増締めが行われていなかったから、シリンダヘッドの燃焼ガス漏れ箇所の整備措置をとった際に、業者に依頼するなどして、同ボルトを点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、燃焼ガスの漏れのほかには特に異状がないものと思い、同ボルトを点検しなかった職務上の過失により、同ボルトの締付けが緩んだまま運転を続け、主軸受とクランク軸との軸心が偏移して同軸受の潤滑が阻害され、軸受メタルの焼損を招き、クランク軸の焼付きなどを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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