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1998年(平成10年)

平成8年神審第86号
    件名
貨物船淡州丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年6月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、佐和明、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:淡州丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
減速機換装

    原因
主機逆転減速機の点検不十分

    主文
本件機関損傷は、主機逆転減速機の点検が不十分で、軸受の摩耗が進行するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年1月11日03時50分
神戸港沖
2 船舶の要目
船種船名 貨物船淡州丸
総トン数 199.87トン
登録長 33.29メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 250キロワット(定格出力)
回転数 毎分1,200(定格回転数)
3 事実の経過
淡州丸は、ばら積みセメントの運搬に従事する昭和53年に進水した鋼製貨物船で、専ら大阪港第3区のセメント会社専用岸壁と兵庫県淡路島の津名港間とを、往復に9ないし10時間かけて月間平均約20航海しており、主機としてヤンマーディーゼル株式会社製の6A-HT型ディーゼル機関を装備し、軸系に同じく同社が製造したY26-R型クラッチ式逆転減速機(以下「減速機」という。)を備え、操舵室に設けた遠隔操縦装置によって主機の増減速、クラッチの嵌脱(かんだつ)、前後進切り替え等の各操作が行えるようになっていた。
減速機は、上下2つ割れのケーシング内部に、たわみ軸継手で主機フライホイールと連結された前進軸、同軸によって駆動される後進軸、及び中間軸に直結された出力軸の3本の軸を内蔵し、ケーシング底部に潤滑油が約50リットル張り込まれ、後進軸後端に潤滑油ポンプが直結された自己潤滑式のもので、前進軸及び後進軸にはそれぞれ油圧クラッチを介して小歯車が装着され、出力軸にキー止めされた大歯車と両小歯車とが噛(か)み合う構造となっていた。また、各軸両端は、軸受によって支持されており、そのうち出力軸の前後両端には、各々前進時及び後進時の推力軸受を兼ねて、円錐(えんすい)ころ軸受が使用されていた。
なお、減速機の各軸受の整備基準については、運転時間20,000時間ごとに全軸受を開放し、軸受ころ等の摺動(しゅうどう)面を特に注意深く点検して異状があれば新替えするよう取扱説明書に記載されていた。ところが、前後進両軸が上側ケーシングを取り外せば比較的簡単に抜き出せたのに対し、軸受点検のため出力軸を抜き出すには、機関室プレート下の狭い場所で中間軸を取り外さなければならないなど、船内での作業は困難で、減速機を陸揚げのうえ行う必要があった。このため、同軸は就航以来1度も抜き出されておらず、長期間点検されないまま両軸受の使用時間が使用限度近くとなっていた。
本船は、平成8年6月定期検査工事のため徳島県の造船所に入渠することとなった。ところで、本船の運航は運航管理会社に委託され、機関部入渠工事仕様書は同社工務課長が機関長の意見を参考に作成していた。そして今回の入渠に際して同課長は、主機、補機、プロペラ軸等のほか、機関長から不具合の報告はなかったが、減速機についても開放整備を行わせることとし、前回いつの時点で整備されたか記録がなく来歴が不明であったことから、陸揚げのうえ開放点検のつもりで減速機開放受検、不良部品新替えの旨の仕様書を作成し、造船所に提出した。
B指定海難関係人は、学校卒業後鉄工所に勤務したのち、昭和50年に有限会社Aを設立し、以来内航船の機関の据付け、修理、整備等に従事していたもので、本船と同構造の機種を含め、これまで数多くの減速機の整備を手掛け、軸受の使用限度等についてもよく承知していた。そして本船入渠の際、造船所を介して全機関部工事を請け負った同人は、8人の職工を指揮して工事に取り掛かった。
減速機の開放にあたり、B指定海難関係人は、機関長に確認したところ、来歴は不明であるが不具合箇所はなく定期整備である旨告げられ、また工事仕様書に具体的な陸揚げ整備の指示がなかったことから、通常行う船内整備の方法で、前後進両軸を抜き出し、出力軸は、中間軸と切り離しただけで抜き出さずに、軸受部の回転音に異状のないこと、及び同軸前後方向移動量の計測結果から、両軸受の状態は良好と判断し、クラッチ等を開放整備ののち各所を受検のうえ復旧した。
入渠工事を終えた本船は、係留及び海上試運転を行い、機関長及びB指定海難関係人が、減速機の運転音等に異状がないことを確認したうえ、同6月下旬に出渠して運航に復帰した。
A受審人は、翌7月中旬から本船に乗り組んで機関の運転管理にあたっていたもので、減速機については、2、3日に1度潤滑油量を計測し、また時々聴音棒で運転音を確認するようにしていたところ、出力軸船首側軸受が経年疲労により摩耗し始め、運転音が次第に大きくなることを認めた。しかしながら、同人は、入渠中に整備したばかりと引継ぎを受けていたので急に大事に至ることはあるまいと思い、運航管理会社を通じ修理業者を手配するなどして、早期に同機を開放のうえ軸受を点検することなく運転を続け、そのまま摩耗が進行すると円錐ころの表面剥離(はくり)等が生じ、同軸受が急速に破損に至る状態となっていることに気付かなかった。
こうして本船は、A受審人が船長と2人で乗り組み、セメント270トンを積載し、同8年1月11日02時30分大阪港を出港し、津名港に向け主機回転数を毎分1,000に定めて航行中、減速機同軸受の摩耗が進行して円錐ころや同保持器等が破損したことから、プロペラ推力により推進軸系全体が船首方に移動し、03時50分神戸港第6防波堤灯台から真方位162度3.8海里の地点で、減速機出力軸がケーシング前面を突き破り、中間軸との継手ボルトが減速機ケーシング後面に接触して激しく火花をあげ、主機の回転数が低下した。
当時、天候は晴で風力3の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。
船橋で船長を補佐して見張りに就いていたA受審人は、主機回転数の低下に気付いて急ぎ機関室に赴き、焦げ臭い異臭に続いて減速機付近のプレート下から火花及び煙が上がっていることに気付き、船橋に連絡したうえ主機を停止して点検したところ、減速機ケーシング船首側の出力軸前面ふたが破損していることを認め、運転不能となった旨船長に連絡した。
本船は、引船に曳航(えいこう)され、津名港に入港したうえ揚荷を終えて大阪港に引き返し、修理業者の手により、推進軸系各部を点検し、船尾部や中間軸受に損傷のないことを確認するとともに、減速機は同業者工場に陸揚げして開放されたが、のち、修理費と工期の関係で中古の同型機と換装された。

(原因)
本件機関損傷は、減速機の円錐ころ軸受が摩耗して運転音が大きくなった際、同軸受の点検が不十分で、摩耗が進行するまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、機関の運転管理にあたり、減速機の運転音が次第に大きくなることを認めた場合、軸受が摩耗しているおそれがあったから、そのまま運転を続けて破損させることのないよう、修理業者を手配するなどして早期に同機を開放のうえ軸受を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、減速機は整備したばかりなので急に大事に至ることはあるまいと思い、早期に同機を開放のうえ軸受を点検しなかった職務上の過失により、軸受の摩耗が進行するまま運転を続け、減速機各部を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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