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1998年(平成10年)

平成9年函審第57号
    件名
漁船第1地岬丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年6月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、米田裕、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第1地岬丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
2ないし6番の主軸受メタル焼き付き、主軸受のハウジング部に熱変形、クランクジャーナルに亀裂

    原因
主機の整備不十分(主軸受メタル)

    主文
本件機関損傷は、主機の整備が不十分で、摩耗の進んでいた主軸受メタルが潤滑不良となったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月23日07時00分
北海道知床半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第1地岬丸
総トン数 19.85トン
全長 20.88メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 250キロワット
回転数 毎分1,800
3 事実の経過
第1地岬丸(以下「地岬丸」という。)は、昭和54年6月に進水し、定置網漁業に従事するFRP製漁船で、6月から8月を定置網の仕掛け作業などを行う操業準備期間、9月中旬から11月一杯を操業期間とし、それ以外を休漁期間としていた。
主機は、三菱重工業株式会社が同54年に製造した6ZDAC-1型ディーゼル機関で、シリンダには、船首方から1ないし6番の順番号が付されていた。
ところで、主機潤滑油の主系統は、オイルパン内から主機直結歯車ポンプによって吸引加圧された潤滑油が、冷却器、フィルタを経て主管に至り、分岐して主軸受、クランクピン軸受などを潤滑したのちオイルパンに落下する一方、同主管に至った潤滑油の一部が各シリンダに設けられた噴油ノズルを介してピストン内面を冷却するようになっていた。また、主軸受は、吊り下げ式構造で、三層メタルが用いられていた。
A受審人は、地岬丸に就航以来船長として乗り組み、機関の運転保守にも当たっていたもので、毎年操業準備期間に入る前に、自ら潤滑油の交換や海水系統の保護亜鉛の取替えなどの簡単な整備を行い、主機を使用する操業準備期間中及び操業期間中には、主機の燃焼状態が不良になったとき、工場に燃料弁の交換を依頼するなどしていたが、主機の開放整備については、不調を認めてから工場に頼んでも遅くないと思い、就航以来一度も同整備を行うことなく、操業を繰り返していた。
このため、主機は、運転時間の経過に伴い主軸受メタルの摩耗が進行して同軸受間隙(げき)が過大となり、平成8年6月12日から操業準備期間に入ったときは、同軸受メタルが著しい摩耗により潤滑不良気味になっていた。
こうして、地岬丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、操業準備の目的で、船首1.05メートル船尾1.95メートルの喫水をもって、同6月23日04時30分北海道知円別漁港を発し、05時30分ペキンノ埼沖合の漁場に至り、定置網を固定する作業などに従事したのち、06時40分同漁場を発し、主機を回転数毎分1,800で運転して同漁港に向け航行中、07時00分相泊港南防波堤灯台から真方位053度1.6海里の地点において、著しく摩耗していた2ないし6番の主軸受メタルが潤滑不良の進行により焼き付き、主機の回転が低下するとともに煙突から黒煙が出始めた。
当時、天候は曇で風力1の東南東風が吹き、海上は平穏であった。
操船中のA受審人は、直ちに主機を停止して潤滑油量、燃料油量などを点検したが異状なく、再始動して増速したところ、異常な運転音を発したので航行不能と判断して救助を求めた。
地岬丸は、僚船に曳(えい)航されて知円別漁港に至り、修理業者によって主機が開放調査された結果、前示損傷のほか、主軸受のハウジング部に熱変形、クランクジャーナルに過熱による亀(き)裂をそれぞれ生じており、のち損傷部品は新替えされた。

(原因)
本件機関損傷は、主機の整備が不十分で、長期間開放整備がなされないまま運転が続けられ、主軸受メタルの摩耗により同軸受間隙が過大となり、同軸受メタルが潤滑不良となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の運転保守に当たる場合、主軸受メタルの摩耗により同軸受間隙が過大な状態で運転されることのないよう、主機を定期的に開放整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、不調を認めてから工場に頼んでも遅くないと思い、主機を定期的に開放整備しなかった職務上の過失により、主軸受メタルが著しく摩耗したまま運転が続けられ、同軸受メタルに潤滑不良を生じる事態を招き、同軸受及びクランク軸を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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