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(12) Mcdougal & Burke によれば、十分な根拠なしに行われた臨検の責任に関するこの条項の意義は、「容疑活動をとった船舶は、たとえ調査によって同船がなんらの犯罪を犯していなかったことが判明しても、これに補償を与える必要がないことを明示したことにある」と指摘している(McDougal & Burke, supra note 9, p.891.)。

(13) 1956年 ILCの本条(ILC条約草案第46条、公海条約第22条(3)、国連海洋法条約第110条(3))のコメンタリーは、「軍艦の属する国は、軍艦の措置によって引き起こされた遅延について当該商船に補償しなければならない。それは同船が合理的な根拠なしに停船させられた場合にとどまらず、容疑に根拠がないことが証明され、かつ同船が容疑を生ぜしめることとなったいかなる行為をも行なっていなかった場合もすべて含まれる。この厳しいペナルティは、臨検権の濫用を防止するために正当化されると考えられる」と述べている(ILC Yearbook 1956, vol.II p.84 (commenrary of Art. 46, para. (3))。山本草二教授は、更に明確に指摘されている。公海条約第22条(3)は「適法行為に基づく損害の賠償支払いの義務を軍艦の本国に課したものであることは、疑いない。しかし、これをもって、国家に無過失責任を課したものと解することは、誤りである。臨検の権利を行使するための要件は、海賊行為、奴隷取引または国旗の濫用を疑うに足る「十分な根拠」があることであり、このような根拠もないのに臨検を行なえば、違法行為に基づく国家責任が追及されることは、明らかである。これに、反して本項で定めるように、十分な根拠があって臨検を行なった場合には、かりに結果的にその容疑の根拠が否定されたとしても、臨検自体は適法である。本項が、容疑の根拠がなくなった被害船舶に対して補償の権利を認めたのは、臨検の権利について濫用を避けるためであり、結果的に容疑の根拠がなかったことになれば、権利濫用に基づく国家責任を軍艦の本国に課したことになる」(山本草二・国際法における危険責任主義(1982、東京大学出版会)282頁注(8))。なお、参照、山本草二・海洋法(1992、三省堂)228頁、山本草二・国際法(新版、1994、有斐閣)647頁。

(14) 参照、村上「海上執行措置と旗国管轄権」山本草二先生古稀記念『国家管轄権』(1998、勁草書房)584頁以下。

(15) 田畑茂二郎・国際法I(新版、1973、有斐閣)476頁。なお参照、ILC 国家責任条約草案22条コメンタリー、ILC Yearbook 1977, Vol. II p. 234. 村瀬信也(監訳)「『国家責任』に関する条文草案注釈(2・完)」立教法学第24巻178頁(1985)。

(16) 田畑茂二郎、前掲注(15)476頁。

(17) 田畑茂二郎、前掲注(15)477、481頁。

 

 

 

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