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(3) 平成4年5月には、本件の曳航していた巡視艇船長の刑事責任については、地検は嫌疑不十分として不起訴処分決定をおこなった。その理由は、曳航索を固縛していたトンウ号のタツが破損、それに伴う船首部破損により浸水してトンウ号が沈没したと推定され、巡視船船長に過失はなかったとしたものである。平成5年9月には、在京韓国大使館は刑事事件不起訴処分について理由開示請求を行い、わが国は同月これに回答した。しかし、平成6年4月、行方不明者の遺族から国を被告として東京地方裁判所に賠償金3,500万円の支払い等を求める国家賠償請求訴訟が提訴された。原告側は、本件の曳航の方法、監視方法等に過失があったと主張したが、被告の国側は、本件において過失はなかったとの立場であった。このような状況に対して、平成8年6月、裁判所から和解勧告があり、平成8年11月に、国は原告に和解金1,300万円を支払い、原告はその他の請求を放棄する内容で、和解が成立した。

(4) この事件は、漁業取締りに関連して外国船舶に損害を生ぜしめた事例であり、国家賠償事件として審理中に和解による解決をみた。犯罪取締りに伴う相手方の損失・損害については、国内では主として国家賠償法をもちいてその賠償が図られる。しかし、海上犯罪の取締り、とりわけ外国船舶を相手方とするものにあっては、これにとどまらず、相手外国船舶の旗国やその積荷の所有者の国籍国など、国対国の関係が問題となる。国家の外交的保護の問題や国際法上の国家責任が問題となりうるからである。以下において、公海上の海上犯罪の取締りについて、国連海洋法条約を中心にこの問題に触れることにしたい。

 

2 海上犯罪取締りと国家責任

 

(1) 公海上の海上犯罪取締りと公海の自由

(イ) 公海上の犯罪取締りに関連して、公海の自由との関係がとわれた一連の事件がある。

ベーリング海オットセイ仲裁判決(1893)及び同判決に付された規則に基づき公海上に設定されたオットセイ共同規制水域において(1)、19世紀末から20世紀初めにかけて、英国漁船が銃器・弾薬の必要な封印をしていなかったなどの違反を理由に、米国によって漁船が拿捕される事例が相いついだ。

 

 

 

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