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海上犯罪取締りと国際的賠償責任

海上保安大学校教授  村上 暦造

 

1 韓国漁船トンウ号損害賠償事件

 

(1) 外国船舶の海上における犯罪の取締りに関連して、外国船舶の側に損害を与えたために、これに賠償を与えることが必要となる事例がある。わが国の場合、そのような事例はこれまでほとんど経験していないが、全くないわけではない。そのような事例の一つとして、平成3年の韓国漁船トンウ号損害賠償事件を取り上げ、本稿の検討の前提としておきたい。

(2) 平成3年12月14日、対馬郷埼西11.5カイリのわが国漁業専管水域において、韓国小型底曳網漁船トンウ号(総トン数13トン、3名乗組み)が漁業違反を犯したため、日韓漁業専管水域省令(日本国と大韓民国との間の漁業に関する協定第一条1の漁業に関する水域等において大韓民国国民の行う漁業の禁止に関する省令(昭和40年農林省令58号))の違反を理由として、厳原海上保安部巡視艇は韓国人船長を逮捕し、船体を差し押さえて、厳原港に引致した。船長は同月19日に長崎地方裁判所厳原支部に起訴され、裁判は継続中であったが、その後、船体は還付されることとなった。しかし、船長以外の乗組員だけでは同船を操船して帰国できないこと、また同船の機関が不調であったことから、同月24日、厳原保安部は船長以外の乗組員2名を乗せたトンウ号を巡視艇で曳航し、これを韓国海洋警察庁警備艇に引き渡すため、洋上の会合地点に向け航行中、午後6時過ぎ、領海外(漁業専管水域内)の郷埼313度5.2カイリ付近で曳航索が外れ、船体乗組員とも行方不明となったものである。その後、約1カ月間、付近海域の大規模な捜索が続けられたが、船体、乗組員を発見することはできなかった。

 

 

 

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