日本財団 図書館


即ち、旗国の手続に伴い、沿岸国の手続が停止、終了し、ボンドが返還される事態がしばしば生じたとしても、執行のインセンティブが低下することはない。これが第一の問題に対する解答である。また、条約に認められた沿岸国としての手続に要した費用の支払いを受ける必要もない。これが第二の問題に対する解答である。ボンド(保証金)による釈放までの手続と旗国による手続とは、沿岸国から見て、沿岸国の法益の保護を実現する一体の手続と理解されるからである。これに対し、第三の問題に関しては、沿岸国で起訴がなされた後には、技術的には不可能ではないが、沿岸国手続の停止、終了の効力は生じないと理解する必要があろう。もっとも、このような事態を避けるため、実務上は、出頭期日を手続の開始から6ヶ月を経た後の日付に設定して、問題を解消している。担保金の返還は期日に出頭している限り問題ない。

現行の出頭担保金とは異なり、交通反則金に類似した刑罰に代替する行政制裁的な性格のものとして制度設計すると、沿岸国の手続の開始後まもなくその手続が終了するから、代理処罰を考えなければならない基礎がなく、第一から第三までの三つの問題は、最初から回避できる。しかし、事実が争われた場合には別の問題が生じる。

損害賠償の性格をもつ簡易の手続が創設できれば、その場合も、第一から第三までの問題は生じない。

これに対して、沿岸国の手続を補充的なものと考えた場合、第一の問題に関しては、執行のインセンティブは一般論としてはおそらくその分だけ低下することになるであろう。ただ、海上保安官の意識の現状を見ると、実務の実際は変わらないかもしれない。第二の問題に関しては、費用請求を考える必要が生じよう。ただ、第一の問題で実務の実際が変わらないとしたら、必要がないとすることもありうるであろう。第三の問題に関しては、代理処罰として構成した場合と同様である。

現行の出頭保証金ではなく、交通反則金のような刑罰に変わる行政制裁のようなものを採用すると、沿岸国の手続はすぐに終了するから、旗国の手続との調整を図る必要が生じないため、沿岸国の手続を補充的なものと考える必要もなくなる。

損害賠償の性格をもつ簡易の手続が創設できた場合も、同様である。

(9) (6)で述べた、汚染が沿岸国に対する著しい損害に関するものであるときは、(7)から(8)に述べたことは直ちには当てはまらないが、(8)の交通反則金類似の制度や簡易の損害賠償制度に関するところは妥当する。

(10) 排他的経済水域において著しい損害を生じさせる汚染を生じさせた明白で客観的な証拠のある船舶が排他的経済水域を航行中に、沿岸国が執行をする場合も、(6)および(9)で述べたところが基本的に当てはまる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION