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継続追跡権行使とその国内法上の要件

海上保安大学校教授  廣瀬 肇

 

1. はじめに

 

平成10年6月24日、長崎地方裁判所で、韓国大型トロール漁船「第3満久号」領海侵犯操業・公務執行妨害事件の判決が下されている。この事件は、浜田の「第909テドン号」領海侵犯操業事件とともに、我が国が、領海の基線として直線基線を採用したことから、新たに領海が拡大した、いわゆる「新領海」における「外国人漁業の規制に関する法律(以下「外規法」と略)」の適用の可否が主たる争点であった。「第3満久号」に対する長崎地裁判決は、満久号の領海侵犯操業を認めるとともに、公海上の外国船上における我が国の海上保安官の公務の執行を妨害した行為に対して、刑法第95条第1項の公務執行妨害罪の成立を認めたことにおいて画期的なものと考えられる。つまり、領海の基線として、直線基線を採用したことによって、新たに領海となった海域(新領海)における韓国漁船の漁業操業行為に対して、初めて外規法の適用が認められたことと、次いで、国連海洋法条約第111条に規定する継続追跡権の行使について、我が国の国内法の手当てである「領海及び接続水域に関する法律」第3条の、「我が国の内水又は領海から行われる国連海洋法条約第111条に定めるところによる追跡に係る我が国の公務員の職務の執行及びこれを妨げる行為については、我が国の法令(罰則を含む。第5条において同じ。)を適用する。」という規定の適用が、初めて裁判で認められたのである(1)

この判決の中で、「被告人三名の判示第二の行為(公務執行妨害罪にあたる行為;筆者注)についても、右は判示第一の漁業行為に関して長崎海上保安部職員らが行った国連海洋法条約第111条所定の要件を満たす適法な追跡行為に対して行われたものであるから、同条及び新領海法3条により日本に取締り及び裁判管轄権があるものである。」としている。

 

 

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