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海上における法令違反取り締まりの限界

─実体法の立法管轄と解釈的拡張の可能性─

立教大学教授  奥脇 直也

 

1. 海上における法令執行の障害と限界

 

(1) 接続水域における排除と防止

麻薬・向精神薬の密輸、集団密航、拳銃の密輸など、船舶を介してあるいは船舶内の人員(乗組員または旅客)により、海路を通じて行われる犯罪が増大しつつある。これら犯罪の或るものについては従来通り、税関線における取り締まりあるいは水際での国境警備を厳格にすることで済むが、あるものについてはこれを有効に防止するためには、外国船舶がわが国領海あるいは接続水域に入域したところで発見されかつそれら法令違反を行おうとしていることが明らかになった場合に、海上においてこれを捕捉し、我が国港湾に引致し、国際法上可能な限度における一定の手続をとることが必要となる場合がある。とくにわが国は、海洋法条約の批准にともなって、『領海法』(1976年)を『領海及び接続水域に関する法律』(1996年)に改正したが、国際法上および海洋法上、沿岸国は接続水域において「自国の領土又は領海における通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令の違反を防止する」ために「必要な規制(control)」を行うことを認められており(海洋法条約33条)、したがって海上保安当局に対しては、接続水域を設定した意義を実現するのに必要な規制を行う権限が与えられたものと考えられる。しかるにこの接続水域における「必要な規制」は、外国船舶が既に沿岸国の領土または領海内で特定の法令への違反を行ったものである場合には処罰のための刑事手続きを含むが、わが国の領域に向かって接続水域を単に航行中

 

 

 

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