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5 おわりに─アジアを見る目─

 

アジア諸国は、1997年の通貨危機のため、「奇跡」の高度成長から一転して、経済不況、政治・社会の不安定に落ち入った。今、各国は、この「複合危機」の克服に懸命に取り組んでいるところである。これらの諸国の行政を基盤として支えている公務員制度を調査研究することは、アジアを理解する上で重要なことであり、また、4年に亘る調査研究の報告書最終巻を出すことは時宜の得たものである。すでに指摘したように、内容としては十分調査研究できないところも多く、今後の研究に待たなければならないところも多い。このような研究の際にも、岩崎敏氏の次のような「アジアを見る目」13)を持ってほしい。

「外国の諸制度を調査する場合でも、国民性や文化の異なる欧米のシステムだけでなく、アジアの近隣諸国の取り組みについても研究し参考にすることがもっとあってもよいのではないでしょうか。彼らの悩みが我々と共通のものであることも多いでしょうし、さらに付け加えれば、日本人が「遅れた奴らに教えてやる」という意識を捨てない限り、アジアの人々はいつまでも我々をアジアの同胞と認めてくれないでしょう。」

この小論文は、アジア諸国の公務員制度を考える視点について、三つの視点を述べた。この視点は、今後アジア諸国の公務員制度を考える際に少なくとも必要欠くべからざるものであり、これ以外にも視点があると考える。いずれにせよ、岩崎氏のいうような「アジアを見る目」で問題意識(視点)を持って考えていってもらいたいと思う。

(第4編 菅野 雄)

 

【注】

1) 国名は、朝日現代用語「知恵蔵(1993)」各国データによる。

2) 外国公務員制度研究会編「欧米国家公務員制度の概要─米英独仏の現状─(生産性労働情報センター1997年9月)

3) 大西裕「比較行政学(開発途上国)」『講座行政学第1巻(行政の発展)』148頁 (有斐閣 1994年)

4) 大西裕・前掲3) 174頁

5) 大西裕・前掲3) 174頁

6) 浜渦哲雄「英国紳士の植民地統治─インド高等文官への道」はしがき (中公新書 1991年)

7) 大西裕・前掲3) 159頁〜161頁

8) 司馬遼太郎「役人道について(再録)」文芸春秋1996年4月号136頁〜150頁

9) 平成10年5月26日付読売新聞「解説と提言・インドネシア─スハルト時代」

10) 大村賢三「シンガポール汚職調査局を訪問して」人事院月報('97年12月号)22頁23頁

汚職調査局で配布された説明資料を紹介してその結びとしているので、その部分を再掲する。

「今日、我が国の公務は、世界で最も効率的でクリーンな公務の一つと言われている。かつて汚職にまみれていた公務が汚職が稀な公務に変わったのは、次の要因による。

1] 政治的指導が汚職の根絶に強い意志を持っていること。

2] 汚職防止法の内容が適切で、汚職の防止に適切な刑罰を定めていること。

 

 

 

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