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6 教育制度

 

初めに、ミャンマーの教育をとりまく環境について触れておく。同国には、教育の普及にとって、有利な歴史的遺産と不利な政治的現実が存在する。

表1をみてすぐに気付くことは、所得レベルおよび人間開発指数が低いにも関わらず、識字率が高い点である。(1)ミャンマーが、最貧国の中では例外的とも言える高い識字率を誇る要因の一つとして、しばしば伝統的な僧院教育の存在が指摘されている。上座部仏教徒の多い同国では、教育は伝統的に生活の中で高い価値を与えられてきた。仏教文化・価値観の土台の上に、僧院教育は基礎的な読み書きの普及において重要な役割を担ってきた。僧院(学校)は、現在も全国に広く存続している。

このような教育の普及に有利な歴史的・文化的環境がある一方、特に高等教育をとりまく政治的状況には厳しいものがある。ミャンマー近現代史において、大学生を中心とする学生は、常に市民勢力の代表(即ち、権力への主要な対抗勢力)であった。1988年全国的な民主化闘争を開始し、社会主義体制を打倒したのも、学生の力による所が大であった。その他にも様々な歴史的経緯も加わり、当局の学生に対する警戒感は強い。1988年9月の軍の権力掌握後、92年まで大学が閉鎖されたのも、こうした当局の警戒感の表れである。その後大学は再開されたものの、1996年末の学生デモを契機に再び閉鎖され、1988年末に

 

表1 教育状況の比較

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(出所)

UNDP, Human Development Report(1995).

(注)

*UNDPが開発した人間開発の程度を示す指数(HDI)の世界順位。

**1人当たりGDPは、1992年時点の購買力平価(PPP)。

***6-23歳を対象。

****高校進学数に占める割合(1988-91年)。

 

(1) UNDPの統計では1992年に82%であるが、ミャンマー政府が実施した1990年労働力調査(Myanmar Labour Force Survey)によれば、識学率は88%に達している。

 

 

 

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