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序章 概説

 

1 はじめに

 

途上国が経済開発を進めるに際し、効率的な行政制度とこれを支える優秀な官僚が重要であるという認識は、一時は奇跡とまで賞賛された高度成長を達成した「東アジア」共通の経験に裏打ちされたものである。まず、アジアNIEs、続いてASEANが市場経済の枠組みにより経済成長を開始した。さらに、政治的には共産党の一党支配が続く中国やベトナムも、改革開放による市場経済への移行とこれによる経済成長を目指し始めた。それ故、現在、途上国の経済開発において行政や官僚に求められる役割と能力は、中央計画型の経済統制に係わるものではなく、市場の機能を促進させ、市場の失敗を補完するためのそれであると言える。

ミャンマーにおいても、1988年全国を席巻した民主化運動とその後の軍事政権の登場を契機に、四半世紀にわたり追求されてきた「ビルマ式社会主義」が放棄され、対外開放と市場経済への移行が開始された。こうした状況下、政府は対外開放および市場経済という新しい環境に適応するため、社会主義時代の行政・官僚制度を改革する必要性を認識している。しかしながら、既に部分的な取り組みが始まっているものの、長期におよぶ社会主義時代の遺制、国内外民主化勢力からの挑戦と政治的不安定、少数民族問題、経済状況の悪化などにより、行財政改革および官僚制度改革は思うように進捗していないのが現状である。

本稿では、現行のミャンマー公務員制度(および付随的に行政制度)の概要を紹介する。同国の公務員制度に関する情報は極めて少ない。本稿の記述は主に、最後に記した参考文献と、1998年6月に実施した中央公務員大学におけるインタビュー調査に基づいている。但し、インタビューを通じても明らかになった点であるが、公務員に関する法律、手続令、その他諸規則の多くは現在改定中であり、また入手できた資料にも日付の古いものがある。以上から、本稿に記載された内容が既に変更されている可能性がある点にご留意頂きたい。

先に述べたとおり、政府のすすめる行政・官僚制度改革は必ずしも順調な進捗状況にない。今後ミャンマーがこの分野で改革を推進するにあたり、日本が提供できる知的支援は多いはずである。本稿がそうした支援を構想するための、基礎情報となることを希望している。

 

 

 

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