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はしがき

 

1990年代に入る前後から、ASEAN諸国は目覚ましい経済発展をとげた。その結果、周辺諸国を取り込んで、「アジアの時代」と呼ばれるほどの存在感を示し、世界経済の3極化時代の重要プレヤーとして注目されるようになった。しかし華々しく報道されたパーフォーマンスの陰に潜むその基盤は、決して強固なものではなかった。1997年秋のタイのバーツ切り下げに始まる一連の急激な地域通貨の変動は、その最初にして最大の試練ではなかったろうか。いま次の世紀を目前にして、各国ともに経済の再建、そのための政治の安定、さらには国際協調の方途を模索している状態にある。

かつて「アジアは一つ」と言われたこともあったが、今では各国の多様性を認識するように変わってきた。それぞれの国で、民族の構成はもちろん、宗教、言語、文字、風俗、習慣などを異にし、国家としてのまとまり、経済開発の程度、諸国間の関係なども、複雑な様相を呈している。そうした環境の下でも、行政が発展の主導的な役割を果たすことに対しては、各国共通の理解が寄せられているようである。とくに、度重なる開国のプレッシャーに耐え、アジアの東にいち早く近代化を達成したわが国の経験は、新しい国造りのモデルとして、近隣諸国から注目されたところである。わが国もまた、こうした諸国の関心に応えるべく、1960年代半ば以来30年余、行政・公務員制度に関する研修員の受け入れはもちろん、人事行政全般にわたる技術指導など、できる限りの協力に努めた次第であった。

ところがこの地域は、1977年創設のASEANのイニシャテイブによって、地域全体が新たな変動の渦中にある。すなわち1993年にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)の発足、1995年にはラオス、カンボジア、ミャンマー3国を加えた「ASEAN10」の実現を決め、さらに96年にはアジア欧州首脳会議(ASEM)の開催にまで漕ぎ付けた。このように地域各国との関係が深まるにつれ、これらの諸国は行政、公務員制度の近代化を進めているだけに、その実状の理解は時代の要請であるといっても過言ではない。

この調査研究は、このような視点からわが国と密接な関係にあるアジア諸国の国家公務員制度を調査するもので、平成7年(1995年)度より4ヶ年間、毎年3カ国を対象に選んだ次第であった。初年度はインド、パキスタン、ネパール、ついで2年度にはASEANの中からシンガポール、マレーシア、フィリピンの3カ国、3年度はインドネシア、タイの2カ国に加えて台湾の2カ国、1地域を、そして最終年度の今年度はブルネイ、ミャンマー、ラオスの3カ国を調査した。

 

 

 

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