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だが案外にその理解・認識は浅い。はじめにあたって現図の本質につき触れてみたゆえんである。

本書は、対象を鋼船工作に限って、その変化を先導するための現図のアウトプットを、体系だてて解説する試みである。

在来の手作業による現図工程の中で、型・定規の作成は7〜8割の作業量を占めており、この工程の生産性を支配している。その合理化に役立てる参考とするのが本書の狙いである。

 

また更に、ここで断っておきたいのは、先に述べた[図面=現図]の別の意味、つまりその「一致」の重要性についてである。

図面に指示あるかぎり、「現図は図面通りとする」のが原則。記載ある限り図面優先、図面がおかしければまず図面を直す。

源流を濁してはならない。

 

なお文中ところどころに演習題を挿入してある。各自で考えてもらうためである。正解は、その各自の考えた行き先にある。参考のため筆者の「解」を本書末尾に収録した。

 

1.1 型・定規の機能

現図職人は自分の手作りした型定規に、それぞれの個性溢れる字を、手早く書きなぐる。字の大きさ配置にも、それぞれの審美眼を反映させ、分かりやすく、かつ心地よい仕上がりに。あたかも職能のあかし、プライドも読み取れるように、型定規の作成自体が目的化してゆく。

現図と罫書きを分業としてから、築かれてきた造船文化といえようか。

だが作成された型定規は、一時的な情報媒体であって「製品」ではない。船ができた後には何も残らぬ、単なる設計・工作情報の伝達・再現手段にすぎない。そのこと、つまり型定規は「機能」であることは常時自覚しておきたい。

だから伝達効率からは、もし可能なら、それを使う人が作るのがよいのである。他に送る手紙と自分だけのメモとを考え合わせると、その差が分かる。

かっての船台立揃と所要現図寸法取りを同一人が行っていた鉄木工の職能、小規模造船所でのマーキン職による型取り、現代では数値現図からのアウトプットによる撓鉄職場自身での曲型作成や大組立職自身での板継仕上げマーキン定規の作成。これらの分業ナシ体制では、ひとりでに型定規の作成作業が事前検討・準備になり、作成内容は必要最小限になるはずである。ムリ・ムラ・ムダが自ずと省かれよう。

 

 

 

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