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葛根田の世界最高温度地熱井で分かったこと

 

地質調査所地質熱部室長 村岡洋文

新エネルギー・産業技術総合開発機構 大久保泰邦

 

(座長)「葛根田の世界最高温度地熱井で分かった事」

村岡様は、地質調査所地質熱部の室長さん。新エネルギー産業技術総合開発機構の大久保先生。

尚、ご講演頂きますのは、村岡様です。宜しくお願いします。

 

ご紹介頂きました、地質調査所の村岡でございます。今回は、私ども地熱分野の者まで講演の機会を与えて下さいまして有り難うございます。

 

先ず最初に、今回「世界最高の地熱井」とタイトルに書きましたけれども、若干これには、Excuseが必要でございまして、ご承知の様に、1980あるいは1981年の頃、サンディア・ナショナル・ラボラトリーが、ハワイのキラウエア域溶岩湖に於きまして深度93mの掘削を行っております。これは溶解した溶岩湖の表層から、93m掘ったものでして、融解した溶岩に逢着しておりますし、しかも、1070℃に達しておりますので間違いなくこの井戸こそ世界最高の温度でございます。ただ、ここでは「地熱性として」と言う形容詞を付けている次第でございます。ただ今から、ご紹介致します地熱性の温度の掘削の事例でございますけれども、このプロジェクトは深部地熱資源調査を申しまして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)という所が実施しております。私ども地質調査所は、これと密接な研究協力体制をとって協力しているところでございます。

 

(FIG-1)

先ず、最初に結論を述べさせて頂きますと、

1. 先ず、この深部地熱資源調査で掘削しました井戸でございます。これは、1994年1月から1995年7月まで、東北日本弧の葛根田地熱地域という所で掘削されました、探査井の名前を「WD1-A」と申します。掘削深度は当初4,000m級の予定でございましたけれども、種々の掘り止め判断・危険等を考えて、結果的には、3,729mで掘り止めとなりました。この井戸は、2,860m以深で、非常に若い花崗岩体をつら抜きました。この坑底は、今、現在も500℃と言った温度を持っておりますので、年代測定は、非常に難しいのですが、角閃石のK-Ar(カリウム-アルゴン)年代によれば、30万年、あるいは、それよりももっと若い花崗岩体、固結したばかりの花崗岩体をつら抜いております。また、その抗井は坑底で、少なくとも500℃以上の温度に達しております。これは、当然ながら、純水の沸騰点曲線を超えるものでありまして、もっと言えば、Sub-solidus温度、マグマの形質、火成岩のSub-solidus温度に達したと言ってもいい温度でございます。この事は、この深成岩体が、葛根田地熱系の真の熱源である。それも、マグマから冷却しつつある熱源であるという事を初めて明確に実証したという事が言えるかと思います。

 

1] この抗井は、脆性-塑性境界を完全につら抜いた井戸でございます。そういう意味では、世界で初めての事かも知れません。ファーニエ氏等に拠って1791年に幾つかの地熱井は、この脆性-塑性境界に近づいているのではないかというような論文がございます。しかしながら、この井戸の様に明確な形で脆性-塑性境界をつら抜いた井戸は、初めてではないかと思われます。

 

2] さらに、この抗井は先ず温度が脆性-塑性境界を規制して、これが断熱分布を規制して、そして、これが、熱水帯を規制するという、これらの遷移的な関係を明らかにしたという事が、言えるかと思います。

 

3] さらに、この抗井は、いわゆる地熱地域の通常の熱水対流の下にですね、濃高塩水(ブライン)と非凝縮性のガスから成るtwo-phaze-zone(二相帯)があると言う事を明らかにしております。

 

 

 

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