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マントル深部からの上昇流の正体:ハワイ火山深海調査

 

東京工業大学理学部教授

高橋栄一

 

(座長)本日は、昨日と少しおもむきを変えまして、主として固体的な部分の問題をご議論、あるいは、ご発表頂きたいと思っております。

昨日は、気候変動でありますとか、生物の話がありましたが、本日はより深く、つまりマントルへ、より温度の高い所へ、そして、いよいよ、地震の破砕帯というような方向でもって、皆様のご講義を頂きたいと思います。本日、最初のご講演をお願いしておりますのは、東京工業大学理学部教授でおられます高橋栄一先生です。先生よろしくお願い致します。

 

(FIG.-1)

この様な場所で話す機会を与えて頂きまして、大変有り難うございました。

私は、実は、海洋底の調査の専門家ではありませんし、ましてやDrillingの専門家でもありません。私の専門は、地球の深い所の物質とか、起こっている現象を実験室で探り、あるいは地球深部で生成したマグマが表面に出て起こす火山現象から逆に地球内部の物質の動きを探る、そういう事をやっております。今日は、私の研究室で行って来た研究でマントルの上昇流(マントルプルームと言いますが)と、それによって出来た地球上で一番活発な火成作用であるハワイの火山についての最近の研究結果を少しお話させて頂きます。

 

(FIG.-2)、(FIG.-3)

地球の非常に深い所からの上昇流がある事が知られております。こういうものを私達は、マントルプルームと呼んでいます。普通の上昇流とどこが違うかと言うと、非常に狭い領域に大きな火山活動を起こす、という訳で、茫洋とした上昇流ではなくて、狭い所に集中した流れである、こういうものを特にマントルプルームと呼びます。このマントルプルームは、地下深い所から上がって来るために、地球の表面に起こっているプレートの運動とは独立に、同じ所にかなり長い時間留まっています。その際例えば、太平洋プレートの下に、この様なマントルプルームが上がって来ますと、太平洋プレートはかなり高速で動いておりますので、1億年近くの間ほぼ同じ場所に次々に新しい火山を造っていくということが知られています。で、これは、プレートテクトニクスが生まれた時から、ホットスポットという概念で、認識されていて、プレートテクトニクスの中の3点セット(中央海嶺、サブダクション帯、ホットスポット)の一つに数えられています。ところが、マントルプルームというのは、プレートテクトニクスが出来てから、もう30年近く経つにも拘らず地球のどの場所で、一体どういうメカニズムで起こるのか、という事が分かっておりません。そこで、これは地球ダイナミクスを考える上で、現在未解決の最大の問題の1つであるという風に私達は考えております。

 

(FIG.-4)

マントルプルームというものが地表に達しますと、どういう事が起こるかというと、一番最初に非常に大規模な火山活動が起こります。こういうものを私達は、洪水の様に玄武岩が流れるとう意味で「Flood-basalt」(洪水玄武岩)と呼んでおります。大体100万年位の間に、インドのデカン高原全体を覆う厚さ3Km近くの玄武岩が噴出した事が判っています。数100Km3もの玄武岩質の溶岩が一度に噴出すると1週間位の間に1000Km位の距離を流れてしまいます。マントルプルームが地表付近に達するとそのように洪水のような玄武岩が次々と同じ場所に噴出する訳です。マントルプルームの起こした巨大火成作用についてはインドのデカン高原が代表例ですけれど、それだけではなくて、太平洋の中にもオントンジャワ海台という巨大な海台を形成したという事が知られています。

 

 

 

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