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地震は、地球規模の熱源が、地球のマントルの循環運動と溶解反応を促し、海洋や大陸の下の地殻を持ち上げようとする力の現れに過ぎない。地震発生の詳細な過程や時間経過に伴う変化については未だよくわかっていない。

 

陸上微生物が順応した環境の多様性について、広く認識されたのはつい最近のことである。海底下生物圏の性質や広がりは、地球上生物の活動や、生命の起源や進化に関する我々の展望を変えかねない可能性を秘めているほど重要な謎である。海洋堆積物の中に形成されているガスハイドレートは、経済的に重要な炭化水素貯蔵庫をもたらすかもしれない。また、大陸縁辺部に於ける斜面破壊や地滑りによる不安定化は、地球規模の重大気候変化をもたらす温暖化ガスの大量放出を招く可能性がある。しかし、こうした危険性を、現行の遠隔探査や地質採取といった方法によって確かめることはできない。

 

OD21掘削計画は、こうした緊急の課題全てに対し、重大な貢献を行う唯一の手段である。OD21計画の基本である、地球規模気候変動の理解、地震発生帯での地殻変動観測、マントルの性質解明、海底下生物圏の探索、そしてガスハイドレートの性質把握を目指すにあたって、ライザー掘削技術を持ったOD21の掘削船は、あらゆる要件に対応した不可欠なツールとなるであろう。これら基本課題のいくつかにとっては、OD21で提言されているライザー掘削船が、最初の取り組みを始める段階から不可欠となる。

 

OD21計画は、地球のしくみについて研究しようとする主要な機関だけでなく、社会的、経済的にも有意義なものになるであろう。もちろん、科学計画というものはすんなり進展するものではないし、発見は予期できるものではないということを認識しなければならない。我々は、地震発生帯の観測が、地震の確かな予測を可能にする前兆を察知できるようになることを確信しているわけではない。また我々は、過去の気候条件を調べることにより、将来の気候がわかるようになると断言することもできない。そして我々は地殻深部での新しい微生物の発見およびその特性の把握が、例えば新しい医薬開発へとつながっていくであろうと言うこともできない。いずれにせよ、基本科学研究の発展によりもたらされる恩恵は、次の点に於いて明確である: 我々の環境とその環境を支配する物理、化学、そして生物的法則への理解を高めるための研究は、我々が我々の経済、社会福祉に向けて行い得る最高の投資の一つである。この計画を進めることにより、日本は地球システム科学という重要な分野に於ける自らの技術的、科学的なリーダーシップを発揮するであろう。

 

 

 

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