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造船革新計画

 造船革新計画(SIS)の当初の適用期間は、1999年7月1日から2004年6月30日までの5年間となろう。この計画は造船業界に対して、競争上の優位維持のために必要な分野における支援を提供することを目的とした長期施策だが、他の製造業に対する援助との釣合いから、控えめな水準に抑えられている。他の製造業の大半は関税の形での支援を受けているが、造船業のように輸出志向の産業にとっては、関税形態の支援はあまり価値がない。とはいえ何も援助を与えなければ、成長のために必要とする資本や熟練労働力といった生産資源の確保にあたって、造船業界を相対的に不利な状態に置くことになる。
 この産業において将来にわたり持続する競争上の優位を築くためには、技術革新がもっとも重要な要素であることは、多くの人の認めるところである。当事者である業界人自身、また外部の有識者すべてが、同じ見解を示している。
 技術革新に対する援助の手法についてはいくつかの選択肢があるが、いずれにせよ下記の2点について、いずれかを選ばなければならない。

  1. 援助対象を当該企業自体とするか、または業界の代表としての、AMERECのような公共部門の機関とするか。

  2. 援助の対象となる技術革新の性格を、政府が指定すべきかどうか。

 

技術

 すぐれた設計は当初から明らかに重要な要素で、オーストラリアの造船業に高速フェリーの分野における先駆者の優位をもたらした。オーストラリアの設計技術者の貢献は、船体設計における、今世紀を通じてもっとも重要なブレークスルーをもたらし、基本システム船と複合システム船との性能面のギャップを埋めたり、それどころかしばしば前者が後者を凌駕するのを可能にしたと見られている。恐らく、1990年のIncatの最初の大型旅客カー・フェリー、船体長74メートルの「ホーバースビード・グレート・ブリテン」の引渡しが、大きな飛躍を印したといえる。
 造船業界にとっての課題は、建造工程の革新と製品開発の両面でリードを維持することにある。業界の事情に詳しい有識者が憂慮している一つの問題は、オーストラリアの造船所で自動化が比較的遅れている点である。海外の進んだ鋼船建造所では自動化が大きな流れであり、特に溶接のロボット化が進んでいる。
 専用ロボットの使用は、特に生産ラインの変更に関連して、若干のリスクを伴う。しかし、一部の業界専門家の見るところ、自動化には省力化に加えて、溶接の精度向上、それによる船体の軽量化という利点がある。日本や韓国でアルミ製高速フェリーを建造する新鋭自動化造船所が建設されると、相対的に労働集約的なオーストラリアの造船所が太力打ちすることは、きわめてむずかしくなるという予測もできる。
 業界大手は、建造工程の自動化率を引き上げ、資本集約性を高める必要を認めている。これら各社は海外の造船所、また航空機生産のような他産業の先端工場をいつも視察している。問題は、これら各社がアルミ船建造で主導的地位にあるため、範を取るべき同種の造船所が海外にないことである。さらに、海外の工作機械メーカーが、アルミ船建造所の高度自動化に必要となる、先端的な設備機器をまだ開発していない上に、そのような設備に対する需要が限られているので、近い将来にこれに優先的に取り組む可能性は低いと思われる。一方、国内の業界でも、この分野の能力や専門技術は限られている。

 

結論

 オーストラリアの造船業は現在、高水準の成長と輝かしい見通しをもっている。これを持続させるためにもつとも重要なことは、研究開発の継続と技術の応用である。現在業界と政府の間に見られる強固な関係は、造船業の成長を支えるのに役立つであろう。

 

 

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