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4.今後の課題

 今回実施した電気処理法の実験は、電極として開口径が約φ100μmの多孔質炭素電極を装備した電解槽を使用し、港湾海水中の各種生物および底泥中の有毒プランクトンのシストを通過させ、その損傷状況で効果を判定した。 その結果、電解槽内の滞留時間が長い(電位印加の時間が長い)ほど効果が高く、海水中の生物は約10秒、シストは約90秒で殺滅効果が得られることが明らかになった。 また、効果を得るに必要な印可電力も3V,1A以下と極微力で十分であった。
 一方、印加せずに電解槽を通過させた場合においても、多孔質炭素電極に生物等の粒子が付着・吸着し、除去されることも確認された。 その効果は、電解槽内滞留時間が短い(流速が速い)ほど大きい。 しかし、この除去効果は、生物の電極への接触を増やすという効果向上のためには欠かせない多孔質炭素電極構造が、粒子の付着・吸着、さらには装置の目詰まりという実船への適用を考える上での問題点を生み出していることにもなる。
 実船におけるバラスト水の運用方法は、その船種・船型・大きさ・航路等による多岐にわたるが、一度にある程度多量の漲排水が行われることが多い。 また、漲水したバラスト水を排出するまでの期間も数日間かそれ以下であることが少なくない。 リバラスト代替手段としての処理を、漲排水と同時に行うにしても、漲水後に改めて(航海中に)行うにしても、代替手段に対しては、一定量以上のバラスト水を継続的に処理できることが要求されると考えられる。
 装置製造メーカーによれば、今回の装置をある程度大型したものでは、数100トンの継続処理が可能で、その条件でも生物殺滅能力は維持されるとのことである。 今回使用した装置が電極固定型で付着物の目詰まりによる圧力がかかりやすく、逆洗装置等の目詰まり対策も施されていないことを考えれば、本電気処理法は、それら対策を組み入れたシステムに改良することで、大量海水の継続処理に適用できる可能性は十分にある。
 当初予想された本電気処理法の原理は、上記した電極と生物細胞間の直接電子移動反応と粒子の付着・吸着効果、それにオキシダントの生成が考えられた。 オキシダントの生成は、生物殺滅効果を高める反面、船体(鉄)腐食や環境への二次汚染が心配されるものである。 今回の実験結果は、特定水質に長時間電位を印加する場合にのみオキシダントが生成され、短期間ではあるものの残留するというものである。 よって、船体の腐食や二次汚染の心配は、ほとんどないと推測される。
 しかし、危惧が完全に無くなったわけではなく、実船を念頭に置いた改良装置を設計し製作する場合には、万全を期すためにオキシダント除去工程を組み入れる方が良いと考えられる。
 以上の課題は、実船に適用する場合における最適な電極構造・開口径,電解槽滞留時間,印加電力と共に今後の課題である。 他国から提案されているフィルター処理と異なり、本電気処理法は通過する生物に対しての効果が主体であり、リバラスト代替方策としての有用性は高いと考える。 また、使用電力が微力であるため、経済性,安全性においても優れていると思われる。 今後は、実船適用を想定した改良装置の製作と、効果,各種有効性の確認する実験の実施が望まれる。

 

5.むすび

 本調査研究は、国際的な海洋汚染問題として論議されている船舶のバラスト水による有害海洋生物の移植防止対策、特に、現在、唯一実施されている洋上でのバラスト水交換(リバラスト)に替わる対策として、平成9年度の調査研究で海洋生物殺滅能力の有効性が確かめられたオゾンと同等以上の効果が期待される微弱電力による電気処理法の有効性と課題を検討した。 その結果、海洋生物殺滅能力、船体および環境への影響に関しては、かなり有効性が高く、実船への適用を検討するに値する技術であると評価された。 また、実用化に向けての課題も明らかにした。
 これらは、ともに本事業の成果であり、今後の国際的な知見の確立にとって有効な資料として活用され、海洋環境保全および健全な海上貿易の振興に寄与できれば幸いである。

 

 

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