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特集
海 賊 今 昔
―現在も横行する海のギャング―


筆 者
海上保安大学校 教授 廣瀬 肇

 海賊には長い歴史がある。海賊の略奪行為や残虐行為にはいつの時代にも嫌われたことに違いはないが、あるときはその収益が一国を支えたこともあった。
 また、文学や映画に取り上げられ、「海賊とロマン」として人々の心を捕らえもした。さらに、髑髏(どくろ)マークが海賊を意味することも人々に定着して久しい。
その海賊が現代にもいるというのだ。海賊に襲われることを「新しい海難」に遭遇したというべきか。その対策は急を要すると思うのだが……。


最近の海賊の例

 平成10年4月、マレーシア船籍ペトロレンジャー号がシンガポールを出港してから行方不明となり、海賊に襲撃されたのではないかとのニュースが世界を駆け巡りました。
 シンガポールからのニュースは「経済危機の影響から東南アジアにおける海賊行為が増加し、残忍なケースが増えるだろうとIMB(国際海事事務所)地域センターが発表。高価な燃料を運搬中の船がターゲットになっている。過去半年の間に東南アジア海域において襲撃を受けたタンカーのうちペトロレンジャー号の事件が3隻目である。」と伝えていました。また、「平成5年5月11日深夜、東シナ海の公海上において、長崎県の漁船D丸が、約100トンの不審船(船名、番号、国籍、船型等不詳)に探照灯を照射されて接近された。D丸がこれを避けようとしたところさらに接近され、2時間にわたって小銃等により断続的な発砲を受けた。不審船は、D丸に乗り込もうとして盛んに接舷を試みていたが、そのうち諦めて離れていった。D丸の船体には30発の弾痕が確認されたが人命には異常がなかった(平成5年海上保安白書)。」といった報告もあります。これは正に海賊の話です。

海賊のイメージ

 海賊といえば、奇怪な骸骨の旗を翻し、獲物とみれば相手選ばず襲いかかり、腕ずくで財宝を奪いさる“海の無法者”の姿が思い浮かぶ、とは別枝達夫氏の著書「海賊の系譜」の冒頭の表現です。しかしそれは、多少ともロマンチックな憧れを込めて考える16〜18世紀の海賊をイメージすればということでありましよう。
 長沼賢海先生は「日本の海賊」の中で、海賊という言葉の雰囲気には文学的なものが多分にある。常識的には面白そうなという語境を伴っている、とされます。ただし、海賊の歴史性を考えれば、実に複雑であって、真面目に考えれば考えるほど面白そうなという点がなくなると結んでいます。

海賊の語源

 さて、海賊(pirate)はラテン語でもpirateギリシャ語でpeiratesといい、語源は動詞peiram(試みる)で、「海上で一獲千金を試みる」の意(アルベール・ドーザ)なのだそうです。
 また「万人共通の敵である。(Priata communis hostis omnium)」といったのはローマ元老院の論客キケロ(BC106〜、義務論)であったとか。海賊は古来万人共通の敵とされ、あるいは人類一般の敵(hostis humani generis)とされてきましたが(ユベール・デシャン、田辺貞之助訳、海賊)、そのことを一段と鮮明にしたのはローマ法王であったといわれます


 

 

 

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