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剣詩舞の研究【詩心を探る】

コンクール審査に思う  石川健次郎

 

剣詩舞のコンクールが昭和53年度に実施されてから約20年になるが、審査のポイントである技術的表現力にかかわる「基礎技量」や「錬磨度」、芸術的表現力にかかわる「詩心表現力」や「舞台表現」のそれぞれがかなりのレベルアップを見せてきたことで、財団がコンクールを通して剣詩舞全体の高揚を意とした願いは達成に向かっている証となった。

ところで、コンクール会場でコンクール作品の成果に目を向けてみると、時代の流れとともにいろいろな面でのさま変りに気がつくので、勿論総てではないが以下その傾向について述べることにする。

 

基礎技術から技巧へ

まず技術面での顕著な現象としては、体の運び、特に重心の安定がよくなったことである。また演技(振りや型)の正確さについても全体に自然体のものが目立ち、無理のない型や流れが表現力を豊かにする。一般に振りや型は流儀の独自性と云うこともあるが、舞踊的な表現としては無理のない方向に研究を進める指導者が増え、省略や組み合わせによる新たな基礎を編み出す工夫を積極的に行って成功している。

なお剣や扇などの扱い方については、その“基本的”な意味や考え方について、先行する居合・抜刀術や、能・舞踊などにおける扱いが積極的に定着した感があり、更に剣詩舞独自の創意ある扱い方が見られるのも成果と云えよう。

さてこうした基礎技量は、コンクール出場者のたゆまぬ錬磨によって、演技者の身体についたリズム感(間)の良さとして現われてくる。基礎技量における「呼吸のととのえ方」も、例えば剣技の一つの動作としての呼吸法も大切だが、連続技になると必然的に錬磨の成果としてのリズム感と呼吸法の二人三脚が、それこそ、息をもつかぬ素晴しい技巧を見せることになり、演技の流れや吟との調和がはかられる。

「錬磨度」については、どの位練習を積めば良いのか、と云った数値はないが、毎年のコンクールで上位入賞者を見ると、その稽古の多さが歴然とする程“間”や演技にメリハリの良さが現われて、技術のうまさが感じられる。なおこれらの技術のうまさは、作品の持つ芸術的表現を意味するものではないが、錬磨を重ねる過程で、それを匂わす技巧が見えてくることもあり、例えば技巧的な演技では“間”のとり方に常間ではないが魅力のある“ひねり”で、かなり内容的な感情が訴えられることもある。

 

詩心を探る

技術的表現力が進歩した背景には、演技者が基礎技量を下敷にし、技巧としての表現力を身につけたいきさつを前項で述べたが、更に剣詩舞作品としての向上についても、この十年間に芸術的表現力としての詩心表現の研究が、格段の研鑽を積んで来た。こうしたことは舞踊作品を作る上での究極のテーマであり、それだけ奥の深いものがある。コンクールの審査規定にも記されているように要約すれば「作品の振り付け意図が芸術的に表現されているか」又は「演技者がそれらの感情を豊かに表出しているか」の二つにしぼられる。

そこで次に、構成振付と詩心表現の関係を探ることにしよう。一般論として漢詩などに述べられた詩文の意味は、詩文の字句や単語の配列がストレートに詩の心を述べている場合もあるが、多くは文字の意味を引き合いに出す譬(たと)えが多く、真意は表裏の関係であったりする。

 

 

 

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