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第4章 21世紀の海洋利用技術の可能性

 

4.1 21世紀の海洋利用に向けて

海洋は、水産資源や石油など人類共通の資源を育むばかりでなく、科学的探究の対象となってきた。20世紀における海洋に係わる大発見は、プレートテクトニクス、深海の高温熱水スポットの発見とその熱をエネルギー源とする生物群集、海のコンベヤーとして知られる海洋大循環、大気-海洋の密接な連結による地球環境変動、深海にも生息する生物など枚挙にいとまがない。地球の誕生以来、海洋は地球システムおよび生命の進化を支配してきたのは周知の事実である。海洋には、陸上を上回る生物および非生物資源の多様性があり、さらには生命の惑星としての地球環境システムを維持する決定的に重要な役割がある。海の利用にあたっては、物的および空間を活用するハード技術ばかりでなく、科学技術の進歩によってようやく知られるようになってきた海の英知(知識ないしソフトウェア)を活用する海洋技術を構築しなくてはならない。

 

4.2 横断的視点としての海洋知識資源開発

20世紀の科学技術は、コンピュータの発達によって、産業に著しい情報の流通をもたらした。労働人口の割合も、製造業から情報・サービス業へとシフトしてきた。労働集約型の社会から知識集約型の社会へと移行してきたと言われるゆえんである。知識集約型の産業社会では、物的資源よりも知的資源の価値が重要とみなされる。物の値段よりも、情報やサービスの値段の方が高くなってきた。21世紀における産業競争力は、すぐには知られない情報を迅速に収集し、これを活用する技術によって支えられることになろう。

このような社会の変化の中において、海洋の寄与も変化してきた。経済成長を維持するための生産活動を支える海洋利用では、貨物の流通を加速するための大型船の導入、これに伴う港湾の整備が進められ、工業地帯は沿岸域の埋め立てによって拡張された。廃棄物は海に処分されて海洋汚染も無視できない規模になっている。一方、知識集約型の経済社会では、環境との調和、生活空間の快適さが尊重され、物的資源のリサイクル化、省資源・省エネルギー化が飛躍的に進む。海洋利用も、物的な資源の消費と廃棄物は最小限に抑えられ、海洋環境の保全を通じて地球環境を維持する方向にあると言える。しかし、人口の増加に伴って、エネルギー、食料消費の拡大および医療・厚生の充実の問題は、益々困難になることが予想される。無方針な海洋開発が進められることのないよう国際的な調整が今後一層活発となろう。

21世紀に向けた海洋の開発および利用のあり方を予見するために本調査では、「海洋知識資源開発」という視点を設定することとした。この表現は、本調査独自の設定であることから、以下にその経緯を述べる。

21世紀には引き続き、情報通信、コンピュータ、ロボット等のエレクトロニクス技術は飛躍的に発展する。

 

 

 

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