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3.6 各種推進方式の研究開発状況

電磁推進の開発の歴史は、1961年にアメリカのA.Riceによる特許取得に始まり、1963年に、アメリカ、マサチューセッツ工科大学のL.R.A.Doraghにより電磁推進の超電導化が提案された。しかしまだ超電導技術が発展していなかったこともあり、最初に常伝導コイルを搭載したウェスティングハウスの電磁推進モデル船EMS-1が試作され、走航実験に成功した。その後の超電導技術の進歩に伴い、1976年に神戸商船大により超電導コイルを搭載した電磁推進モデル船SEMED-1が初めて試作され、さらにより実用化を念頭に置いて実船レベルの検証としてシップ・アンド・オーシャン財団による「ヤマト1」の試作へと開発が進んできた[1]〜[3]

超電導電磁推進船の研究開発は、日本が「ヤマト1」を実際に建造したのみで、アメリカ、ロシア、フランス、イタリアなどでは理論研究、モデル実験、設計検討と言った研究が中心に行われてきた[1]。最近の論文、学会等での発表としては、中国からの電磁推進装置に関する発表や高周波電磁推進方式に関する発表が見られるので紹介する。

MT-15において、中国から3件の電磁推進装置に関係した文献が見られた。まずLuguan Yanによる中国における最近の磁石技術の開発および応用の現状に関する文献[4]中に、電磁推進の開発状況が紹介されている。具体的な成果としては、図3.6.1のような既存の4Tダイポール型超電導マグネットに、図3.6.2のような電極を持ったダクトを取り付けた試験装置により実験と解析を行い、リニアチャンネルMHDの解析技術の検証や磁界や電極電流を変えた場合の特性について検討が行われている[5]。 また、 ヘリカルMHDスラスターの開発として、835A通電で5.76Tを達成したソレノイドコイルを使った図3.6.3のような5Tソレノイド超電導マグネットに、図3.6.4のようなヘリカルMHDスラスターを装備した図3.6.5のようなモデル船の製作を考えている。この検討の一環として、ヘリカルMHDスラスターの解析モデルや計算コードの開発、試験設備によるMHD推進に関するテストを行っている。その結果として、例えば図3.6.6のような異なる3つのタイプのヘリカルナイロン羽について、特性の比較試験などを報告している。また、「ヤマト1」の6連ダイポール型のリニアスラスターに変えてヘリカルMHDスラスターを用いれば、3〜4倍の推進力が出せると試算している[6]

鳥羽商船高専の窪田祥明らは、高周波電磁推進システムの研究を進めている。高周波電磁推進方式は、直流電磁推進方式の問題点である電極におけるガスの発生、電極の腐食を解決できる点などの特徴がある。文献[7]、[8]、[9]では、高周波電磁推進システムの構成(図3.6.7)と動作原理の説明や、図3.6.8のようなIGBTスイッチと逆並列に接続されたダイオードと直列にリアクトルを接続した改良形フルブリッジ高周波インバータの回路設計、転流重複ZCS(零電流スイッチング)動作と動作特性などの説明がなされている。また、高周波スイッチングによる動作特性を数値解析によるシミュレーションや、図3.6.9のような装置による水槽実験の結果(図3.6.10)を報告している[7]〜[9]。ただし、この方式でも、電気分解によるガスの発生や電極の腐食の問題解決の方法として有効ではあるが、推進効率を上げるためにやはり強力な磁界が必要であることは直流方式と変わりなく、高磁界を発生できる超電導磁石の開発の観点から見れば、交流超電導磁石が必要であり、その開発は直流超電導磁石に比べると課題が多い。また、励磁コイルと電極が直列に電源に接続される構成であり、それに対応した電源の容量、耐圧が必要になる。

 

 

 

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