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(2)監視

超電導磁石の運転状態を監視して、超電導コイルの擾乱やクエンチなどの異常を早期に、かつ確実に検出することで、電源の遮断、蓄積されたエネルギーの放出などにより超電導コイルを保護する必要がある。

超電導磁石の擾乱、クエンチの検出に用いられる方法は、電圧検出による方法、アコースティック・エミッション(AE)の観測による方法、超音波を用いた音響的な方法、光ファイバーを用いた光学的な方法、冷媒の圧力異常を検出する方法、相互相関係数法、ファジー理論に基づく方法、ピックアップコイルにより検出する方法、歪みゲージにより構造材などの歪み変化を検出する方法など、各種の方法が考えられている。

超電導コイルのクエンチを検出する方法として電圧を検知する方法が、最も基本的で一般的に使われている。超電導線が常電導転移すれば常電導抵抗により電圧降下を発生するので、これを検出できれば確実にクエンチを検出できるが、超電導コイルの両端で観測される端子電圧には電流減少による誘導電圧も含まれるため、一般にはブリッジ回路を用いて常電導抵抗により発生する電圧だけを検出している。

導体の滑り、エポキシ樹脂のひび割れなど機械的擾乱により超電導コイルがクエンチする場合には、アコースティック・エミッション(AE)を伴うので、これを検出する方法もある。この方法は、超電導コイルの状態を監視するのに有効な方法の一つであるが、検出されたAEとクエンチとの関連など評価方法の体系化や標準化が必要である。

最近の研究成果として、データ処理技術を取り入れた相互相関係数法やファジー理論による検出方法などが検討されている。

相互相関係数法は、図3.4.22に示したフローのように電圧と電流の規約相互相関係数ρをDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)により高速演算しながら常時監視し、|ρ|の大きさに基づきクエンチを判断する。交流超電導コイルのにおいて、電圧信号にホワイトノイズを重畳した図3.4.23のような場合でも、図3.4.24のような相関係数が得られ、ホワイトノイズの影響が限定されている。この方法は、インダクタンス分が大きく、電磁誘導による誘導ノイズの影響を受けやすい交流超電導コイルのクエンチ検出に適している[5],[6]

核融合炉などに用いられる大型の超電導コイルでは、システムが巨大になり複数の超電導磁石や電源などにより構成される。したがって、監視対象が増加し、数多くのセンサーを取り付けられ、そこから得られるデータも多岐にわたり、多数になる。このため、多数のデータを効率的に集約しクエンチの検出に役立てる方法として、ファジー理論を用いた手法が提案されている。この手法では、基本メンバーシップ関数として超電導コイルの電圧、電流、温度などの計測項目を一連の変数として用いる[7]。メンバーシップ関数はファジィ論理で動作し、“危険因子"と呼ばれる一つの診断因子を生成する。この手法の実証例として、JAERIにおける実験超電導マグネットCS-2(図3.4.25)に、図3.4.26のような多数の電圧測定点を設けて、そこから得られる6点の電圧のデータと電流のデータによるオンライン・モニタ・テストとして図3.4.27のようなパーソナルコンピュータによるシステムを導入し、ヒータ加熱によるクエンチ試験を103ケースについて行っている。この結果、図3.4.28ような測定結果に代表されるように、本手法で合成された危険因子はクエンチ発生の約1秒前に危険度が0.6を越えて、警報を出しており、超電導マグネットのクエンチ危険度を表現できることが分かった[8],[9]

 

 

 

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