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3.3.4 絶縁体

極低温における電気絶縁技術は、真空、冷媒液体、冷媒蒸発ガス、固体絶縁、および複合に分類して論じる必要がある。それぞれの絶縁破壊特性について、簡単にまとめる。

(1)真空

超電導機器では断熱と電気絶縁を兼ねさせる観点から内部冷却導体を使用したコイルやブッシング部分において、真空電気絶縁を使用する場合がある。真空中のギャップの絶縁破壊電圧は、真空度が10-2Paより高ければ、室温においてもかなり高い値を示すが、その絶対値は電極材料、電極表面状態、吸着ガスや残留ガスの組成などの条件により影響される。絶縁破壊電圧は、ギャップ長の0.5から0.7乗に比例する。また、温度を下げると絶縁破壊電圧は上昇し、77Kでは室温より10から20%、4.2Kでは室温より20から50%以上高くなる。有効半径10mmのロゴスキー形電極で測定された、直流絶縁破壊電圧のギャップ長に対する依存性を図3.3.33に示す[2]

(2)冷媒液体

冷媒液体の絶縁破壊電圧は電極形状、液体の状態などに依存する。液体ヘリウムおよび液体窒素の絶縁破壊電圧のギャップ長に対する依存性について、各所で行われた試験結果をまとめた図が図3.3.34、図3.3.35である。電極の材質、表面状態、電極面積などによる影響により実験者によりばらつきが大きいが、平均的には飽和沸騰温度での気泡の発生を極力抑制して測定された破壊電圧の最低値はVbminは、

Vbmin=kdn

と表されている。k、nは液体の種類と電極形状に依存する定数であり、液体ヘリウムと液体窒素の場合の値は、表3.3.13のようになる。気泡が存在すると破壊電圧は低下する(図3.3.35)ので、超臨界あるいは加圧状態にして気泡を防止することが望ましく、圧力の増加により破壊電圧の上昇が見られる例として、液体窒素のパルス破壊電圧の圧力依存性を図3.3.36に示す。しかし、クエンチ時には超電導コイルの発熱により熱気泡の発生と、超電導コイルの端子電圧が上昇するため、絶縁破壊につながりやすい[1][3]

(3)冷媒蒸発ガス

気体の極低温における絶縁破壊機構に関する研究の歴史は古く、多くの結果が報告されている。破壊特性の代表的なものとして、(1)平等電界の破壊電圧Vbは温度Tの逆数に比例する。すなわち、Vb-(d/T)特性が直線になる。密度ρが温度に比例するならば、この関係はパッシェンの法則である。また、ヘリウムでは、4.4K付近からVbは直線関係からはずれ、次第に大きくなり、Liq.HeのVbに近づく。(2)不平等電界ではヘリウムの正針での破壊電圧Vb(+)が負針のVb(-)よりも高い。こうした破壊特性を踏まえた上で、ヘリウムや窒素について、平等電界中での破壊電圧特性(図3.3.37、3.3.38)、電極材料や表面状態による破壊電圧の依存特性、不平等電界中でのギャップ長に対する破壊電圧特性や破壊機構なども明らかにされている[1]

 

 

 

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