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3.3.2 コイル形状

超電導コイルは、様々な用途に応じて設計される。ここでは、イタリアにおけるMHD発電用超電導コイル、中国における電磁力推進船用超電導コイル、アメリカにおけるミューオン閉じ込め装置用超電導コイル、および日本のLHD(Large Helical Device)の4例を取り上げる。

(1)イタリアにおけるMHD発電用超電導コイル[1]

このコイルは、CIC導体(Cable In Conduit)を用いた大型の鞍形コイルである。イタリアでは、Superconductivity and cryogenic Technologyの5カ年計画国家プロジェクトの一貫として、20MW級のMHD発電の研究もすすめられており、この超電導磁石はこの発電機用に試作されたものである。コイルの仕様を表3.3.6に、超電導コイルの外形写真を図3.3.26に、コイルに使用した超電導線の仕様を表3.3.7に示す。蓄積エネルギが大きな超電導コイルなので、安定化には充分な余裕を持たせており、85mJ/cm3の擾乱にまで耐えうる設計としている。さらに、最悪の条件でクエンチが発生した場合でも、温度40K以下、圧力200気圧以下になるように設計されている。

CICケーブルを巻く際に、スプリングバックと呼ばれる巻き戻しが現れるため、はじめは必要な曲げ半径よりも小さな半径で巻き線を行うという方法がとられた。この設定曲げ半径などの計算なども行われており、製作上のポイントとなっている。

(2)中国における電磁力推進船用超電導コイル[2]

中国における電磁力推進船用超電導コイルも、チャンネル内に均一な磁場が発生させられるように鞍形コイルとなっている。図3.3.27に 超電導磁石の外形を、表3.3.8に超電導磁石の主な仕様を、表3.3.9に超電導導体の主な仕様をそれぞれ示す。鞍形巻き線の成形にあたっては、まず、レーストラック状の平面的なダブルパンケーキコイルを作成し、それを磁石のボアに押しつけて曲げるという方法をとっている。製作されたコイルは著しいトレーニング効果を示し、200回ものクエンチを発生させて、やっとIc=400AからIc=700Aを達成したが、超電導磁石の中心磁場は3.8Tまでしか達成できず、設計値の4Tには及ばなかった。クエンチはほとんどの場合、最内層のパンケーキコイルで起こっている。クライオスタットは、シールド板にA5083を用い、その他の部分にはSUS304を用いている。

(3)アメリカにおけるミューオン閉じ込め装置用超電導コイル[3]

アメリカでは1994年にブルックヘブン国立研究所でg-2ミューオンを閉じ込める装置(Muon Storage Ring)として、大型の超電導コイルが製作された。ミューオンの閉じ込め装置は、大きな4つの円形コイルからなっており、そのうちの半径の短い2つのコイルを内部コイル(inner coil)、半径の大きい2つのコイルを外部コイル(outer coil)と呼んでいる。2つの内部コイルはそれぞれ独立した別々のクライオスタットに設置されているが、2つの外部コイルは1つのクライオスタットに設置されている。システムの断面図を図3.3.28に示す。図3.2.28に示されるように、この装置は、この内部コイルと外部コイルとの間に一様な磁場をつくり、そこにミューオンを閉じ込める装置である。コイルの主な仕様を表3.3.11に示す。このコイルの特徴は、ミューオンを閉じ込める部分の磁場均一性を1ppm以内に抑え、かつ時間変動も0.1ppm以内に収めるという非常に厳しいスペックを達成していることにある。構造物も回転対称形状となるため、中心角が30度ずつ、合計12個に分割し、設計、製作された。

 

 

 

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