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6 経済自由化と農業問題

 

インド経済のマクロ不均衡は、1991年4月に外貨準備高が年間輸入額の2週間分にまで払底するという経済危機につながった。インドはIMFと世銀から構造調整融資(SAL)を受けることにより、この難局を乗り切ろうとした。しかしこの融資にはコンディショナリテイが伴っており、インド経済は自由化を余儀なくされた。この時点で、インドの財政赤字は危機的水準にあった。

1991/92年度の『経済白書』は「財政」をはじめの章として、次のような書き出しではじまる。「1980年代を通じて緊迫していた財政事情は、急激な財政赤字の悪化とともに1990/91年に危機的状況に陥った。財政赤字は、国際収支に悪影響を及ぼすとともにインフレ圧力をも生みだしていた。対GDP比でみた中央政府の粗財政赤字は、1970年代半ばの4%、1980年代はじめの6%と比べて、1985/86年度以降は8%以上となっている。こうした財政赤字は維持不可能であり、国家をデット・トラップ(筆者注:国債利払費が新規国債発行額を上回る現象であり、インド政府は州政府も含めて既にこのトラップに陥っている)に導く可能性がある。財政危機の主たる要因は、削減できない非開発支出(筆者注:国防・公債利払費・補助金など)と公的部門の低い投資効率である」。

赤字財政の主たる原因が農業部門への補助金(化学肥料と食料)であることを考えれば、その縮小には既得権益集団の反発がともなう。盤石の政権与党が成立しない限り、この問題の解決は容易ではないであろう。また別の観点からいえば、公共配給制度のための食料補助金は、膨大な貧困層へのセーフテイ・ネットの提供を意味している。

 

 

 

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