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5 もはや食料問題は政策課題ではないのか

 

国内の食料需給に関して、インド政府内では、かなり楽観的見通しが支配的である。これは、ここしばらくの良好なモンスーンによる過去最高レベルに達した緩衝在庫を背景としている。無論、これまで幾度となく経験したモンスーンの不安定化による穀物輸入再開の可能性は避けられないであろうが、中・短期的にはインドの食糧自給は確保されているとみなして差し支えないであろう。問題は、長期的な食料自給が可能であるかにある。

今後の食料需要については幾つかの予測がなされているが、2010年の穀物需要予測は世銀予測の19,100-20,500万トンからG.S.バッラの2010年の24,300-25,900万トンまでの幅をもっている。13世銀に代表される低い推計は経済成長とともに穀物需要が逓減することを前提としており、逆にバッラなどは経済成長とともに牛乳・乳製品・肉そして卵といった需要の所得弾力性が1以上の財の派生需要としての飼料穀物需要の増加を考慮している。ここで推計の妥当性を議論する紙幅はないが、次の事実を確認しておきたい。

第1-13図は、主要州についての支出階層別の一人当たり穀物消費量(米・小麦別)、そして第1-11表は主穀(米と小麦)消費額の支出弾力性を示している。14ここから、次の3点が指摘されうる。第1に、弾力性は農村部で0.42と非常に高い水準にある。ここで留意すべきは、高い支出階層(従って高所得階層)においても穀物が劣等財化しておらず、経済成長過程での穀物需要の高い増加率はしばらくは続くものと考えられる。また低所得州では第2位の穀類がトウジンビエやモロコシといった雑穀となるが、所得増加が雑穀から穀物に需要をシフトさせることが考えられる。例えば、カルナータカ州やグジャラート州では弾力性が異常とも思えるほど高い数値をとっている。これはモロコシやトウジンビエといった雑穀消費量が米や小麦の消費量よりも高く、高所得者層では雑穀が劣等財化して米や小麦に消費がシフトしているためである。このシフトを考慮すれば、世銀推計は過小推計である可能性が強い。

 

 

 

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