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いうまでもなく、農地が区画化されれば効率的な水路設計などにより水配分が効率化されることになり、また機械化にも望ましい効果を与える。しかし小作関係や土地改革法から逃れるためなどにより土地所有関係は重層化している現状では、経済的には有効である交換分合の事業もほとんど進展していない。2すなわちガンジス河下流域での食料増産は、比較的資金に余裕のある、そして管井戸の経済効率を達成するだけの耕地規模をもつ農家を中心になされているものと推測される。それは増産の限界を示唆するとともに、農村内の所得分配を不平等化に向かわせる危険性をも孕んでいる。

 

2-3 農民と市場ネクサス

緑の革命は、さまざまな形態で、農民を市場経済という新たな世界に巻き込んでいった。この農民の市場ネクサス(市場利用の程度)を、生産物と投入財について検討していこう。

第1-9図は、緑の革命の普及がほぼ完了した時点での、パンジャーブ州における農家経営規模別にみた小麦(冬作)の市場化率を示している。市場化率は経営規模が0.4ha程度の農家でプラスとなり、約0.6haで50%に達して、約3haで90%になる。パンジャーブ州の平均経営規模が3.77haであるから、ほぼ全農家で小麦の市場化がなされている。また米(夏作)については、この地域では米を食する習慣がないために、ほとんどが他州に移出される。事情は、ハリヤナ州やUP州西部でもほぼ同じである。この地域では、市場化余剰をもつ新興富農が新たな社会階層として形成されていった。同様のデータは、他州では入手できないが、ビハール州でなされた調査結果(第1-8表:1979-81年調査)を例に取ってみよう。1-2haの経営面積では市場化余剰は発生しておらず、10ha以上の農家でも67%でしかない。この州の平均経営規模は0.86haとパンジャーブ州の1/4以下でしかなく、また土地生産性が1/3でしかないことを考慮すれば、平均的農家ですら米の自給が困難であることがわかる。生産物市場価格の動向は、余剰農産物をもつ農民にとっては関心の対象とならざるをえない。しかし、余剰農産物の販売という形態での市場ネクサスは、農家の経営規模は当然のことながら、地域によっても大きな差異が認められる。その結果、農産物市場価格への農家の反応も市場ネクサスの程度に応じて一様ではなくなる。

 

 

 

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