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インド国内にありながら、地域によってなぜこのような大きな出生率格差が発生したのであろうか。それは一般に予想されるように経済格差とか都市化水準の違いから説現することは出来ない。まず注目されるのは出生率が高水準にある北部諸州が、いわゆるヒンディーベルトにあることである。これらの川ではヒンディー語を母語とする人口が80%を越えており、それ以外の州との際だった違いとなっている。1991年人口センサスによれば、ヒンディーベルト以外の州でヒンディー語を母語とする人口比率が最も高いのは、パンジャブ州の15%、マハラシュトラ州の7%である。しかし使用する言語の違いが、それだけで出生率の低下を妨げるということはあり得ない。その背後により実体的な原因が潜んでいるはずである。

そこで1991年の人口センサスを中心とする統計データから、様々な社会的・経済的・政策的な要因を取り出し、これを各州について計数化した結果を出生率水準と比較して相関係数を計算してみると、各州の平均所得、都市人口比率、工業化率、特定カースト比率、政府の家族計画予算額(住民1人あたり)、医師・病院の密度等については出生率に対する有意な相関関係が見られず、次ぎに述べる事項が重要な要因ととて浮かび上がってくる。

まず、出生率に対してマイナスの相関係数が最も大きかったのは就業者全体に占める被雇用労働者の割合(以下、雇用者率と呼ぶ)である。インドの雇用者は、都市の商工業部門に見られるだけでなく、広く農村において土地を持たない農業労働者という形で存在し、後者は農業従事者の40.3%、全就業者の23.7%をを占めている。これに全就業者の9.0%をしめる周辺的労働者(季節的需要に応じていろいろな仕事に就く不規則的な労働者)2800万人と都市部の非農林業従業者(雇用上の地位は不明)の相当部分を加えると、インドの雇用労働者は全就業者の4割前後に達する。この比率は州によって大きな開きがあるが、これが各州の合計出生率と最も高い相関係数を持っているのである。次ぎに重要な要因は女子の識字率である。識字率は男女別々に得ることが出来、いずれも出生率と有意な相関関係にあるが、特に女性のそれが高い。

 

 

 

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