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8. これまでの現地調査の概要報告

 

ここでは、新井委員の講演内容をもとに、これまでのシルクロード調査につきその概要を報じたい。

 

●中国、シリア及びトルコのシルクロード観光調査について

1994年10月にWTO及びUNESCOの共催によりサマルカンドにおいて「シルクロード・プロジェクト」の会議が開催され、今後官民協力してシルクロード旅行を推進していくことを盛り込んだ「サマルカンド宣言」が採択されました。アジア太平洋観光交流センター(APTEC)はこれを受けて、1995年から「シルクロード等開発途上国地域の観光交流促進調査事業」を開始しました。この調査においては地域各国の交流動向等の基礎調査を行うとともに、主要な観光地について現地調査を実施しています。

1995年(平成7年)度から1997年(平成9年)度はシルクロアドの東の始まりとも言える中国のシルクロード(主として天山南路)について現地調査を行い、1998年(平成10年)度はシルクロードの陸路として西の始まりとも言えるトルコ及びシリアの現地調査を行ないました。

中央アジア、イラン等の地域についての調査は未だ残されています。シルクロードで最も魅力ある地域であるガンダーラの地は(残念ながら自由な調査を実施することが困難な状況です。

中国においては、シルクロード旅行は三峡下りと並ぶ2大人気観光商品という評価を受けており、中国もその振興にひとかたならぬ力を入れているのが現状です。中国においてシルクロードゆかりの地を訪れればシルクロード関連の観光資源が至るところに存在するという感じがします。もっとも、新彊ウィグル地区の奥深くに踏み込み、回教徒の文化が色濃くなってくると、仏教関係の資源の存在が色あせてくる感は否めませんでした。

今回トルコ及びシリアに足を踏み入れてみるとグレコローマン、ビザンチン、キリスト教、回教等多様な歴史文化資源が豊富に存在しており、これまで中国で身近に感じられたシルクロード関連の観光資源が多様な観光資源の中に埋没してしまい、目立たなくなってしまうというのが実感です。

私どもはサマルカンド宣言の趣旨に則りシルクロード沿道諸国が連携して観光振興を促進する為の共通コンセプトの形成が必要であると考えていますが、今年度トルコ及びシリアを調査してみて共通コンセプトの形成はなかなか難しいと感じました。

ビクトリア瀑布、アルプス、タージマハール、ピラミッド等の素晴らしい観光資源も一度見れば二度目は興趣が薄れてしまい再訪はほとんどしないと言うのが通常であり、資源そのもので旅行者にアッピールすることには限界があります。

現存する観光資源にその成り立ち、意義、特色等興趣をそそるような説明なり解説なりがついて初めて旅行者が何度も訪れようと言う気持ちを持つようになると考えます。

中国のシルクロードは日本人にとって、仏教伝来、西遊記等の記憶から興味が尽きない観光資源となっています。一昨年新彊ウィグル地区にあるキジル千仏洞で日本からの高齢者の観光旅行者が多数来ておられるのに出会いました。

その中の1人の方にどうしてここまで来られたのか聞いてみました。彼は「キジル千仏洞の素晴らしさに憧れてここまできているが、何分規模が大きいため一度で全部を見ることは体力的にも無理があり、毎年少しずつ分けてみることとにしており、今回で3度目の訪問である」と言うことでした。

 

 

 

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