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「自動車に関する権限がほとんど付与されていないため、政令都市と雖も、自治体独自で講じられる施策は、きわめて限られている。しかしながら、神戸市は、市民の負託にこたえるために、国家に対し、その責務を確実に要請する一方、市自らの責務に帰せらるべき施策について、最大限の努力を傾注すべき…。」と。一口にいえば、権限はないのだが、市民の負託に応えるとすると何が出来るのか、権限のなさの上にあぐらをかいているわけにいかない。市民と協力してその道を探ろうとする姿勢のあらわれである。住民の選択と行政の選択の一体化を目標とするコミュニティ行政の立場からは間々ある現実である。かつて沢内村において時の村長、深沢晨雄は、「国民の生命を守るのは国の責任。しかし、国がやらないのなら私がやります。国はあとからついてきますよ。」と、法的には許されていない老人と乳児医療の個人負担ゼロを実施したが、そこには、国からの補助金がとまろうが、行政指導があろうが、沢内に必要なものはやるという住民自治の本旨に合致しようとする首長の決意が見られるのであるが、もっとも住民の生活に密着した自治体のこれからの在り方がここに見えるのである。若し前例がないという国税庁の指導に従っていたら、今日、我々は池田町というおいしい町をもてなかったはずである。地方自治とは、本来が苛酷なものである。自由と責任はつねに表裏の関係にある。本当の住民自治を守ることができないなら、そんな自治体などいらない。人口たかだか5000人の沢内村も、140万人の人口を擁する政令都市神戸も、地方自治の本旨に合致すべくその構えが軌を一にしていることに私はただ驚くのみであった。稿を了るにあたっての私の願いは唯一つ。自治体相互の落差の生ぜざる未来の遠からざらんことを。本来の住民の幸せを求めて全力投球する自治体の生まれいづることを。

 

プロフィール

石崎宣雄(いしざきのぶお)

青森県コミュニティアドバイザー

大正6年 埼玉県生れ

昭和16年12月 東北大学卒業(法律学専攻)

昭和24年4月 弘前大大学教授

昭和58年4月 弘前大学停年退官

青森大学地域問題総合研究所長

著書「地方自治の実践」、「地方自治を創る」

「明るい選挙のむこうに明るい町がある」

「近代化のなかの青森県」、「青森県の社会」など

現在は、あしたの青森県を創る運動協会長、明日の日本を創る協会評議員

青森県コミュニティアドバイザーなど、数多くの要職に就任

 

 

 

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