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青山のワタリウムで現在やっているフランス・タイの"to the LIVING ROOM"で、タイの作家の作った漫画本が十冊、館の特設屋台で一冊百円の「マイペンライ東京‐東京危うし‐ピータイ来襲」という本を売っています。ワタリウムはこういう展覧会をやることで、美術の仮設性を実現し、二十一世紀を先取りしていると思うのです。

木下……日本の漫画の強さは表現だけの問題じゃないですよね。メディアや流通に支えられたものですね。

山口……フランスでは紙は棄てられて終わりだけど、日本は回収して再生する。これは驚きだとフランス人はいいます。物質に対する感覚が違う。大友克彦がなぜヨーロッパを征服したかという本当の理由は、物質(マテリアル)の仮設性にあったのではないか。ヨーロッパでは作品をモニュメンタルにしようとする。その違いなんでしょう。

 

◎馬鹿馬鹿しさの線引きを証明しよう◎

 

木下……きょうは、明治元年に生まれ明治と共に生きた内田魯庵という作家の本を持ってきました。十歳の頃に銀座で見た見世物の話が載っていて、「貝細工と油絵の見世物」という文章があるのですが、大変気になる言葉があるのです。それは「貝細工の馬鹿馬鹿しさ」という言葉です。内田に言わせれば、当時は、油絵も見世物だったが、貝細工よりはるかに高級だったというのです。私は貝細工の馬鹿馬鹿しさについて考えてみたいと強く思っています。誰もが端から馬鹿馬鹿しいと思っていることにきちんと目を向けていきたい。山口……内田は小説という形式をばかばかしいと思わない。またヨーロッパをばかばかしいと思う視点が欠けていたから、あれだけの博学でも……。ウインダムルイスのヴォルティズムの理論的影響下にあってね、マリネティに感激して、忘れられたネーベルソンみたいな人を書いていながら、ヨーロッパの面白さをいち早く発見する博識と、それから教授になって大学に入り込もうとしなかった、そういう特殊性があるんだけど、基本的に日本の面白さを分かるのだけど、それを地の枠組みの中に据え置くことをしなかった。つまらないものの意味を分かっているのだけど……。

 

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現在の江之島の貝細工

 

木下……ばかなことを覚えていて書き記してはいるんですね。銀座の「松田の便所は大したいい臭いがすると盛んに評判になった。」こういうことは覚えているんだけどそれ以上追求しない。「こんな馬鹿馬鹿しい大きな貝細工の見世物があったのだ」という言葉はとても気になります。それがどれだけ馬鹿馬鹿しいのかきちんと知ろうとしないですよ。今、私たちはこの馬鹿馬鹿しさについてどれだけ知っているかというと、何も知りません。先人が馬鹿馬鹿しいと言ったことで見ないで来てしまった。

山口……新しいもの驚異的なものでも、一代過ぎれば全ていかがわしいと言われている見世物で、科学も政治も経済現象も全部そうです。その典型的なものが薬屋でしょう。守田宝舟が一番熱中したのが貨幣の収集でした。ルネッサンスの貨幣の研究から始まった。

 

 

 

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