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阿賀とつながって…佐藤真

一本の映画のためだけに三年も阿賀野川の川筋に暮らしたのだから、もう少し天気の良い日に撮影してもよかったのにと自分でも思う。完成した「阿賀に生きる」を眺めると、雨だの雪だの霙だの何かがいつも降っている。あるいは、今には降り出しそうなドンヨリとした空か、吹きとばされんばかりのダシの風が吹いていて、とても縁側に座ってゆったり愛でていられる風景ではない。スタッフも七人もいれば、その中には札付きの雨男も混じるはずだ。肝心の撮影の日に限って、空模様が怪しくなるのは、日頃の行いが悪いせいと諦めていた。

ところが、映画を観た年配の方から何人となく、いつも何か降っているあの湿気の具合が新潟らしくてとても良かったとお誉めの言葉を項戴した。関東平野が異常乾燥注意報の続く秋のおわりから冬の間、谷川岳の向こう側ではいつも雨や霙や雪や何かが降っている。そんなドンヨリ曇った空を見上げて、「アァ」と溜め息をついたことのある人にとって「阿賀に生きる」の湿り気は、三つ子の魂が呼びおこされるものであるらしい。

 

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阿賀野川を渡る磐越西線

 

 

 

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