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従って、煉瓦壁については竣工当初の状況に修復することにより構造劣化を回復することが基本となるので、一般的な手法に従って目地を補修することが望まれる。本部については、基本的には構造計算によって構造強度を数値的に検討する必要があるが、上述のように長期間に渡って架構形式が安定に保たれていることから判断して、少なくとも鉛直荷重の支持機構上の問題は殆ど指摘されない。従って、本部についても煉瓦壁と同様、当初と同じ構法、仕様材料に従って伝統的な大工技術によって旧状に復旧するとともに、部分的な損傷個所についてはや埋木の他、適宜根継等を施すものとする。

屋根については現状で落下、破損している部位も多いが、昭和9年の第1次室戸台風の他、同36年の第2次室戸台風などの大型台風にも屋根瓦全体が飛散するような被害も受けていないので、基本的には当初と同様に修復するのが妥当と判断される。

 

3] 耐震対策

この工場建物が建設後経験した大きな地震とは昭和19(1944)年12月東南海地震、平成7(1995)年1月兵庫県南部地震の2つがある。後者の推定震度は5程度(200〜300gal)で、前者も同程度と推定される。従ってこの建物は震度7クラスの大地震は経験していない。

地盤条件や震源距離など不確定要因はあるが、少なくとも建物が著しく損傷していない段階にあっては震度5級の地震は耐えうることは一応実証済といえるが、将来の激震に対する安定性を確保するためには以下のような耐震構造対策が望まれる。

この工場建築は床面積は広大であるが、単層の木造架構を主体とすることと、平面が正方形に近い整形で且つ整地地盤にも高低差が無いなど、外壁が煉瓦造で木柄が比較的小さいという点を考慮しても、耐震対応の比較的容易な建物であるといえる。

耐震化の基本方針として、煉瓦壁を木造架構と一体構造として地震力が木造架構と壁体に配分するという考え方もあるが、今回は壁体は自重と屋根重量に相当する地震力に抵抗し、中央部の木造架構はそれぞれの支持荷重分あるいは複数の木造架構単位群の所要地震力に抵抗させるように計画し架構全体としての一体的な変形等については必ずしも大きな考慮する必要はないと判断される。

これは、1]建物平面規模が大きいために大地震時には建物を通過する波動の伝播に時間差を生じるために建物が波うつことが避けられること。2]木造の鋸屋根の剛性も小さいために屋根面の剛床仮定が成立しないといったことである。

具体的には構造対策として下記の要目が提案される。

 

(2) 煉瓦壁体について

1] 頂部軒蛇腹の補剛

鋸歯状の突出妻壁部分は地震時に「鞭振り」現象を生じて、落下する可能性が高い。このため、面外曲げにより破壊されるのを防止するために、三角形状の突出部位もしくは鉄骨の添え板(バットレス)によって補強補剛するとともに、軒部位置付近に於いて鋼板等を室内側より建物全周にわたって囲尭して水平面外に変形するのを防止するものとする。

上記バットレスの基礎は外周煉瓦壁の既存基礎と一体にしてコンクリートを打設し地震時の転倒モーメントに抵抗させる。

 

2] 煙突の補強

煙突等突出部の破壊を防止するため、1]項と同じように曲げ補強を施す。煙突については煙筒内にステンレス鋼管等を挿入するのも効果的である。

 

(3) 木造架構について

利用計画に応じて耐震補強構面の箇所数や部位は異なるが、基本的には数スパン以内毎に、梁間・桁行両方向について鉄骨造の補強を設置して、地震力に抵抗させるのが容易である。

 

 

 

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