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4 タカユカ式落雪式を考える

この仙田地区では2〜3m多い年には5〜6mの積雪があり、冬の生活は厳しい。この地域では除雪することを「雪掘り」と言う。このことからもわかるように雪が3メートルも積もれば建物の1階部分は埋もれてしまう。屋根の雪を下ろし、さらに下ろした雪を除雪しなければならい。この雪掘りは大変な労力を要する。そんな環境下で生まれ発達してきたタカユカ落雪式住宅には注目すべき点が多い。

第1 雪掘りの手間が軽減され、融雪式のようなランニングコストがかからない。

第2 居住空間が積雪より高くなり冬季の採光に優れてれる。

第3 床下を車庫、倉庫などに利用でき建築床面積に数えない。

第4 既存の建物残し、改修することもできる。

タカユカ落雪式住宅は豪雪地帯の自然、生活環境に適合し過疎の進むこの地区で唯一増えている住宅である。その反面、中門造の伝統的な民家は姿を消してきている。

1)タカユカ落雪式住宅の機能

落雪式は屋根葺材をトタン、あるいはそれと同様の滑性を持つ葺材にし、屋根の傾斜で積った雪を落下させる。したがって、雪が降るたびに屋根に上がり何度も雪を下ろしたりする必要はなく、降雪量の多いこの地域にでは大変有効な方式である。融雪式のような設備もなく、ランニングコストのかからない単純な形式である。

タカユカ式は基礎を高くして、常に居住している空間を積雪よりも高い位置にすることで、雪に埋もれることなく、採光の面からも利点がある。従来の住宅であれば積雪に備えて一階部分の開口部、入口や窓を雪囲いする。このため室内は暗くなり雪が積るとさらに暗くなる。タカユカ式は基礎の高さを目的に応じて変え、床下空間を有効に活用することができる。特に車庫としての活用は重要である。自動車(軽トラック)は日常生活はもちろん農作業にも不可欠である。その自動車を居住空間に近いところに置くことができる。

このタカユカ式と落雪式の二つを組み合わせ、冬季の除雪の手間を軽減し、厳しい冬の自然環境を克服する手段としている。

2)克雪住宅と伝統的民家

中門造の機能は雪国の環境に今でも必要であり、形を変えてタカユカ落雪式住宅に残っている。タカユカ落雪式は2階建の建物を高い基礎に乗せている建物で中門造と外観上の違いは大きい。床を高くした目的は積雪から建物を守り、除雪を容易にし、採光など居住空間の改善にある。それは床下という新しい空間を生みだした。基礎の高さを使用目的に合わせて替え、車庫、倉庫、作業場などに利用している。これは中門、特に前中門の役割に似ている。同じ屋根の下に居住空間と日常生活に必要な空間を収めている。中門造の発達が雪の影響を受けたように、床下空間の活用もまた影響を受けている。

今までの伝統的な民家は通りから少し奥まったところに家を建て、家の前面に空間を設けている場合が多い。床下を車庫などにしたタカユカ落雪住宅は使い勝手を考えて通り側に建てる。このような克雪住宅の普及は屋敷構えにも影響を及ぼしている。

積雪の多いこの過酷な自然環境は伝統的な建築様式が変りつつある中で常に大きな影響を与え続けている。

3)伝統的建築様式を残したタカユカ落雪式住宅

古い民家を移築したり、移動して改修している例もある。例えば、中仙田の南雲教家は140年以上経つ中門造の民家を改修している。茅葺屋根をトタンで覆い、基礎を高くしてタカユカ落雪式と同じ機能を持つ住宅にした。

新築で伝統的建築様式のセガイ造を取り入れているケースもある。タカユカ落雪式住宅の約半数がこの伝統的な建築様式を取り入れている。また古い民家を改築するなど伝統的な民家への思いが形として現れている。

これらの伝統的建築様式を残した傾向は集落の新しい景観になりつつあり、仙田地区のこれからを考える上で重要な要素である。

 

 

 

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