日本財団 図書館


地球環境と海洋情報の役割

永田豊

(財)日本水路協会海洋情報研究センター

 

黒潮の洗う紀伊半島、伊豆半島、房総半島が暖かいというように、海洋が局地的な気象条件に大きな影響を与えていることは良く知られている。しかし、地球規模の気候条件にどのような役割を果たしているかは意外と知られていない。

海洋が地球の気候システムの中で果たしている役割を要約すると、

(1)海はその巨大な熱容量により、気温の変化を和らげる。

(2)海は地球上の熱の南北輸送で、大気に匹敵する働きをしている。

(3)海水は二酸化炭素を始めとする温室効果ガスを良く吸収する性質を持つ。

ことである。しかし、これには若干の仮定が存在しており、例えばもしも表層の海水が深層・中層へ沈降することがなければ、海洋のこの3つの働きは非常に弱くなってしまう。すなわち、

(1)気候変動にともなう海水温の変化はごく表層に限られ、実質的な海洋の熱容量は非常に小さくなってしまう。

(2)熱の南北輸送には海洋の深層循環が大きくかかわっているが、もし深層水の生成・沈降がなければ、海洋の運ぶ熱量は半減してしまう。

(3)表層の水の沈み込みがなければ、表層水は二酸化炭素等の温室効果ガスに対してすぐに飽和の状態になり、海洋の吸収効果は激減してしまう。

はずなのである。

この3つの役割のうち(1)と(3)は、比較的分かりやすいかと思われるので、(2)について若干の説明を加えて、海洋データ・海洋情報の重要性について述べておきたい。

地球上へもたらされる太陽放射の熱には緯度的に大きなアンバランスがあり、赤道付近で大きく、極地方では非常に小さい。したがって、もしも地球上に熱を赤道付近から極地方へ運ぶ機構がなければ、赤道地方の気温が数十度上昇し、極地方の気温が数十度下降するはずである。このアンバランスを解消する働きをしているのが大気と海洋の大循環であるが、海洋の担う役割がほぼ大気のそれに匹敵していることは意外に知られていない(地球全体では大気のそれの半分位、ただしある緯度では海洋の熱輸送の方が大きい)。海洋中の南北熱輸送の直接的な評価は、各大洋で状況が大きく変わることもあって、大気のそれに比べて非常に難しい。そのため、全体的な評価としては、アンバランスを解消するのに必要な熱輸送から、曲がりなりにも推定された大気の担う熱流量を差引いて、残りを海洋が担うとして計算される場合が多い。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION