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公海の自由航行プロジェクト提出論文

 

海洋国家としての韓国-21世紀の韓国の戦略

 

武貞秀士

(防衛研究所研究室長)

 

立ちはだかった北朝鮮

 

海はわれわれにいろいろな恩恵をもたらしてきた。漁業資源、海底資源をわれわれにもたらしてくれるし、海上交通路を提供して、もっとも手頃な安価な大量輸送の手段として人類に利益をもたらしてきた。国家の安全を保障する「緩衝地帯」としての役割も無視することはできない。

では日本にとっての「海」とは何か。脅威が迫ってくるルートであると同時に、安全を保障してくれる手段であった。海から侵入者が来襲したとき、海を遮断すれば安全を保つことができたのである。鎖国をして安全を維持しようとするとき、海からの日本へのルートを遮断すればよかったので、日本にとっての鎖国は、「海を閉鎖する」という意味で、「鎖海」を意味した。歴史的にいって「海をどうするか」が、日本にとっては安全保障政策であったのである。その意味で日本はその地政的位置からして本質的に海洋国家(あるいは島国)であったといえよう(注1)。

では、韓国にとっての「海」とは何だろうか。朝鮮半島は中国大陸の南端に位置しており、地理の教科書では韓国は半島国家に分類されている。海洋国家でもなく、大陸国家でもない。韓国人は自分の国民性について、陽気、開放的であり、事大主義的で文化的な自負心の強い、自尊心の強い民族であると説明し、その国民性は同じ半島国家であるイタリアに似ていると説明する。このように韓国人の自己イメージは「半島国家」の国民であるというものであり、大陸国家でもなく海洋国家でもないという半島国家としての地政的位置は切り離して考えることはできない。地理的には半島であるので、韓国にとっての海は日本列島との間をわけている緩衝地帯であり、侵攻のルートでもあった。同時に大陸に向かって安全を求めて移動することが可能であり、大陸からの侵入も受けやすい位置にあった。そのため常に中国の動向に敏感であった。やはり、朝鮮半島の人々は海洋国家でも大陸国家でもない国民性をもっていたのである。

しかし、戦後の国際政治の現実は、韓国に対して有無をいわせず海洋国家としての選択をさせることになった。1945年以降、韓国(朝鮮半島の南半分)の北側には国境はなく、南北4キロメートルの幅の非武装地帯だけがあり、その中心に軍事境界線があり、北側に位置する北朝鮮の100万以上の軍隊が南側の韓国に重くのしかかってきた。韓国は1948年の建国以来、陸を通じて北方に飛躍しようとしても、北朝鮮という陸軍勢力にぶつかってしまって、北に出ていくことができない状態が続いた。

 

 

 

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