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(参考資料2-2)

 

鳥取県米子市

 

企業が始めた割り箸回収が地元温泉街の協力で地域に広がった

 

鳥取県米子市のグラウンドワーク活動は、一企業の使用済み割り箸リサイクルの試みが地域運動にまで展開した例である。

王子製紙米子工場が、社員食堂で使った割り箸を回収し、紙の材料として使用し始めたのは、1992年7月のこと。世論で環境問題がクローズアップされ、製紙会社が、森林伐採の張本人とイメージされてしまったことがきっかけとなったという。実際のところ、紙のチップは主に間伐材によってつくられており、環境破壊者というイメージを払拭したいと、捨てられていた使用済み割り箸をリサイクルし、紙に変えていこうと始まったのである。ちなみに、割り箸10キロ(2500人分=5000本)でティッシュペーパー15箱分になる。

この動きにまず賛同したのが、地元の日本海に面する温泉街、皆生(かいけ)温泉の旅館組合だった。その火付け役ともなったのは、皆生温泉の老舗旅館・松風閣の女将、織田万里子さんだ。1995年11月、織田さん自らが先頭に立って使用済み割り箸の回収に乗り出した。いまでは温泉街にとどまらず、飲食店などに活動は広がり、兵庫県赤穂市立高雄小学校の児童・教師・PTAが一体となって、地域で割り箸を回収し、王子製紙に220キロの割り箸を持って訪れるなど、地域を超えた交流へと発展している。また王子製紙米子工場では、廃油による発電の試みも行っており、旅館組合の協力で廃油のリサイクルにまで広がっている。

現在、行政側も企業中心に始まったグラウンドワーク活動を無視できなくなりつつあり、今後いかなるパートナーシップが生まれるか楽しみな地域でもある。

王子製紙、米子工場で割り箸回収を始めた環境管理室の向井哲朗さんは、地域の環境保護グループ「彦名地区環境をよくする会」を結成し、地元の海を守っていく環境新聞の発行や浜辺の清掃などを行っている。親子環境パトロール隊やチビッ子パトロール隊による環境調査も行う。

リサイクルから始まったエコロジカルな一企業の試みは、地域にしっかりと定着し、企業、市民、学校、商工会などをつなげ、地域をつくり始めている。行政との協力はこれからだが、子どもたちの環境教育としてもしかり、旅館を訪れる観光客、そして日本全国へとリサイクルの軸は広がり、自らの手による未来の地球づくりという手応えのある活動に展開している。

 

特長

 

一企業が始めた使用済み割り箸回収によるリサイクル運動に、地元の旅館が賛同し、地域運動に展開。環境教育としても、注目を集めている。

 

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皆生(かいけ)温泉から使用済みの割り箸を回収する、王子製紙の職員。

 

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岡山県の湯の郷温泉おかみ会が使用済み割り箸を、王子製紙の米子工場に届けてくれた。割り箸を粉砕する機械に投入する。

 

北海道十勝圏

 

自主的な住民団体が行政や農協と協力。廃校跡に入った企業も参加して

 

帯広市をはじめとする十勝地域は、酪農や農業がさかんである一方、北海道の原生林を残し、観光地としての顔も持つ。近年、そうした北海道ならではの景観を守り、つくっていこうと地元企業や住民グループの活動が盛りあがっている。十勝地域は、従来から自主的な地域づくり運動が活発ではあったが、現在、互いのパートナーシップを意識することによって、さらに活動が活性化され、充実しつつある点が特徴だ。個々の住民グループの横のつながりはまだみられないが、それぞれにユニークな活動が展開されている。以下それぞれの活動をみてみよう。

● 士幌町は、戦後から「農村ユートピア」をスローガンに町づくりを行ってきた地域である。現在、商工会森林組合などが参加する「士幌町快適環境づくり検討委員会」を設けて、並木づくりや花壇づくり、ゴミの除去、排水路の清掃など幅広い活動を行う。町、農協が助成して、モデル農家を設定し、住宅環境整備を行ったり、農家の浄化槽設置への融資のほか、花壇や芝生づくりなど景観の美化に取り組む農家に補助金が出る。

● 帯広市の「風土と建築を考える会」では、都市と農村の景観をより良くする活動を企業を中心に展開中。そのために、住民のアンケートやワークショップを通して地域環境整備案をつくったり、企業や専門家たちのボランティアによる環境改善案をまとめ、提案をしていく活動を行っている。

● 帯広市の万年地区では、「考えて万年」という住民団体が中心に農村集落の活性化をめざす活動が進んでいる。近年、小学校の廃校跡に入った造園会社と建築設計会社の協力もあって、古い住民と新しい住民(企業)による地域づくりが進む。企業の発案で、子どもたちからお年寄りまで年代ごとの、町づくり構想を話し合うワークショップを行い、アイデアを出していく。「フラワーロード」の造成や集落の中心部の大きな花壇などもその成果だ。また、音楽コンサートや農協と町が共催した和牛肉販売イベントなど、ユニークな活動も多い。

● 「帯広の森市民植樹祭実行委員会」は、70年当時、都市部と農村部との境界線に「帯広の森」をつくるという市長の提案に住民側から自主的に参画したグループである。この会では、植樹など森の保全だけでなく、散歩やジョギング、パークゴルフなど、生活の中で親しめる森づくりをめざして活動中だ。

これらの活発な活動の背景に、住民をはじめ、企業も行政も自らの地域に愛着を持ち、より良くしたいという共通の思いがあり、これが地域づくりの核となってることに着目したい。

 

特長

 

北海道ならではの風土・景観を考えた町づくりを地元企業と住民が模索。農協や行政との協力体制もできつつある。数多くの住民グループによる活動が活発。

 

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十勝馬の道連絡協議会では、馬の道をつくろうと活動中だ。

 

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「帯広の森」をフィールドとして小動物を観察する「エゾリスの会」の冬場の観察。

 

 

 

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