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病原論とハンセン病から学んだもの.

 

議長:J.コルストン博士

 

科学面からいえば、ハンセン病に関して病原論研究を行うためには、いまほどよい機会はないだろう。結核菌(M.tuberculosis)ゲノムの完全なシークェンスが明らかになっており、らい菌(M.1eprae)ゲノムについてもかなりシークェンスが解明されて来た。シークェンスを比較することで、独特な生物学的特性を突き止めることができるだろう。マイコバクテリウム間の遺伝子組み換え技術のおかげで、培養できないM.1epraeではできなかった遺伝子機能のテストができるようになる。さらに、新しい動物モデル(遺伝子を破壊したノックアウト動物や、トランスジェニック(形質転換)動物など)の開発がどんどん進んでいる。これらは、感染や免疫・病理学上のメカニズムのコントロールに関する仮説を実証するために貴重なものとなるはずである。

 

病原論の問題を追求し続けることは、2つの大きな理由から重要だと、私たちは信じている。ハンセン病は細胞内で感染する典型的な例である。比較病原論研究は、ハンセン病の理解につながる重要な情報を提供するばかりか、一般的な感染プロセスの解明にも役立つだろう。ハンセン病の研究から得られる重要なレッスンはいろいろある。第2に細菌学的治療法が確立してから何年もたつが、宿主と病原体の相互作用の影響がいまなおハンセン病患者の臨床上の問題として残っている。怪我の治療や免疫病理学的症状の治療、その他の感染に関しては急速な進歩が見られた。しかし、こうした産業界もハンセン病には関心を持たず、ハンセン病患者の治療の開発は私たちの手にゆだねられている。ハンセン病にかかわるメカニズムが理解できれば、患者に詳細を伝えた上でどちらの方法が有益であるか、決定することができるようになるだろう。

 

私たちは次の領域をもっとも早く解決すべきだと考えている。

 

1. ゲノムのシークェンスを調べるプロジェクトや、関連する微生物のゲノムとの比較研究の完成。これにより、M.lepraeについて生物学的にユニ一クな特性を知ることができ、病原性の分子学的根拠について手がかりが得られるだろう。

 

2. ゲノムによる方法を補うproteomic分析が、感染した宿主の内部で生存するためにどのタンパク質が重要になるかを理解するために役立つだろう。こうしたタンパク質がわかれば、さらに進んだ遺伝子の研究が行われるはずである。

 

3. トランスジェニック・マウスやノックアウト・マウスのような新しい動物モデルは病原の研究に重要な役割を演じるだろう。たとえば、特定の免疫を持たないようにしたマウスによって、宿主の免疫の中でどれが重要な経路になるかを知ることができる。これらの研究には、高度に専門化した施設や専門技術、たとえばマウスの足の肉趾の実験に必要な技術などが必要になる。このような技術や施設は失われる危険性がある。このような新しいモデルを活用するために、こうした施設や技術を継続させて行くことが重要である。

 

 

 

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