IV. 保虫宿主動物の感染状況の調査
我々がこれまでにおこなってきたカンボジアのメコン住血吸虫症調査では、終宿主としては専らヒトの感染状況を調べてきた。しかし、ヒト以外にイヌも本寄生虫の自然感染例が多く報告されていることから、今回の調査では、ヒトに加えて各種保虫宿主動物の感染状況も調べた。
これまでの血清疫学調査では、上流域ほどヒトの感染率が高かったことから、動物の感染率も上流部のほうがより発見しやすいものと推測し、調査地域はKratieより上流の5つの地点、すなわちSambo・Sre Khoeun・Kbal Chuor・Rosseey CharおよびKrakorとした。
ヒト以外の終宿主の自然感染例はすべてイヌであるが、その他の哺乳動物への感染の可能性も考慮して、調査地域で多くみられる動物種すべて(イヌ・ウシ・水牛・ブタ・ウマおよびラット)を調査の対象とした。
方法は、各地域を徒歩で巡回しながら、野外に落ちている糞便を回収するとともに、地元の住民に依頼して動物の糞便を持ち寄ってもらった。集まった糞便検体は、Provincial Health Officeの検査室において、formalin-detergent法により処理し、最終産物である沈渣を獨協医科大学医動物学教室に持ち帰って鏡検し、メコン住血吸虫卵を検索した。
検査の結果、今回集められた検体からは、いずれの地域の動物からも陽性例は検出されなかった(表2)。
※formalin-detergent法による糞便検査の結果,陽性例は検出されなかった。
先に述べたように、メコン住血吸虫の自然感染例は、ヒトのみならずイヌでも報告されている。また、実験的にはマウスにも感染させることが可能である。
人獣共通寄生性であるメコン住血吸虫の宿主域がどの程度であるのかは、本寄生虫症の疫学上極めて重要な点であると同時に、生物学的な見地からも、近縁種である日本住血吸虫と比較するうえで興味深い。
カンボジア国内における、保虫宿主動物のメコン住血吸虫感染状況については、これまでほとんど調べられていない。しかし、ラオスでの調査結果によれば、カンボジア国内においても本寄生虫感染動物、特にイヌの感染例が存在する可能性が非常に高い。今後、検査例数を積み重ねて行くことによって、カンボジア国内における哺乳動物のメコン住血吸虫感染状況を明らかにしてゆく必要がある。