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III. オリエンタルミンドロ州における日本住血吸虫症の疫学調査

 

松田肇

松本淳

 

1. ヒトおよび保虫宿主動物の感染状況

 

日本住血吸虫は人獣共通寄生性であり、ヒト以外の哺乳動物も保虫宿主としてその生活環の維持に関与する。したがって、本症の流行状況を把握する際には、家畜や野生動物の感染状況の調査が不可欠であると1995年度および1997年度の調査に引き続き、本年度も各種の保虫宿主動物の日本住血吸虫感染率を、糞便検査または剖検によって調べた。ヒト(小学校児童)以外の調査対象として、家畜はイヌと水牛を、野生動物ではラットを選定した。調査地域内にはこれらの他にもウシ・ヤギ・ブタなどの哺乳動物が飼育されているが、いずれの村落でも個体数が非常に少ないか、或いは全く飼育されていないという状況であったため、調査対象からは除外した。なお、ラットの種の同定を、神奈川県衛生研究所の矢部辰男氏に依頼した結果、Rattus rattus mindanensisと判定された。

調査地域は、昨年度と同じくフィリピン・オリエンタルミンドロ州のナウハン湖西岸に位置する3つの村落(Malabo、San PedroおよびSan Narciso)とし、昨年度の調査で集まった検体が少なかった地域を中心に検体を採集した。

検査の方法も昨年にならい、小学校児童の糞便は各地域の小学校に回収を依頼し、イヌと水牛については、各村落を徒歩で巡回しながら野外に落ちている糞便を回収した。これらの糞便検体は、すべてformalin-detergent法によって処理し、処理後の最終産物を獨協医科大学医動物学教室に持ち帰って鏡検し、日本住血吸虫卵を検索した。

本年度の調査の結果は以下の通りであった。検体の採集に特に力を入れたラットでは、各村落で100匹以上もの個体が捕獲され(それらの日本住血吸虫感染率は、Malaboで27.1%(38/140)、San Pedroで20.6%(21/102)、San Narcisoで10.8%(12/111)となった。ラットの検査個体数が少なかった昨年度の調査では、他の保虫宿主では感染陽性例が多数みられたのにも関わらず、ラットでは陽性個体が1例見い出されただけであったり(San Narciso)、あるいは全く見つからなかったりした(San Pedro)。
本年度は昨年度より多数のラットを調べることにより、感染陽性例がSan Pedroで21例、San Narcisoで12例、それぞれ検出された。ラットは日本住血吸虫浸淫度の指標として他の保虫宿主と比べて有用な特徴をいくつか備えているが、それらを活用するためには、出来るだけ多くの個体を調査地域全域から万遍なく捕獲する必要があると考えられた。さらに、ラットの1日の行動範囲や季節ごとの移動を明らかにすることで、本症浸淫状況に関してより正確な情報を得ることが期待出来る。

 

 

 

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